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【第79話:美しい光景】

挿絵(By みてみん)

▼ 【公式映像】『七大迷宮都市逃走記』設定資料【第79話:美しい光景】より

https://youtu.be/L-bqwgSUf_U

【タイムリミット:残り4日】


朝もやが渓谷を覆う中、カイとエルナは飛竜の前に立った。

調教を終えた飛竜は、まだ警戒の色を残しながらも、カイたちを襲うことはなくなっていた。


「……さあ、乗るぞ」


カイは飛竜の背に手をかけた。鱗は冷たく、硬い。野生の飛竜の背に乗るなど、普通なら狂気の沙汰だ。

でも、今はそれしか選択肢がない。


「エルナ、先に乗ってくれ。俺は後から前に乗る」


「わ、わかった……」


エルナは震える手で、飛竜の背に触れた。滑りやすい鱗に、何度も手を滑らせる。

カイはエルナが落ちないように支えていた。


「……大丈夫?」


「大丈夫……でも、私高いところ、ちょっと苦手かも」


エルナは青白い顔で答えた。

聖女の都の「清浄の間」から出たことがなかった彼女にとって、空を飛ぶなど想像もつかない体験だった。


「ノクス、飛竜を安定させてくれ」


『了解。重力場で固定する。』


「……落ちない?」


「大丈夫。ノクスが重力で固定してくれる」


カイも飛竜の背に乗り、エルナの前に座った。


「エルナ、俺の腰を掴め。絶対に離すなよ」


「う、うん……」


エルナはカイの腰を掴んだ。その手は震えていた。


「……行くぞ」


カイが飛竜の首を軽く叩くと、飛竜は大きく翼を広げた。

その瞬間、エルナは悲鳴を上げそうになった。


「わあっ!」


飛竜が地面を蹴り、一気に舞い上がる。

重力が急激に変化し、エルナの体が浮き上がるような感覚に襲われた。


「落ちる、落ちるっ!」


「大丈夫だ! ノクスが固定してる!」


カイが叫ぶ。しかし、カイ自身も初めての飛竜移動だ。心臓が激しく鼓動し、手のひらに汗が滲む。


飛竜はさらに高度を上げていく。

眼下に広がる渓谷は、どんどん小さくなっていく。雲が近づき、風が激しく吹き抜ける。


「……高、高すぎる……」


エルナは目を閉じた。それでも恐怖は消えない。

風圧が顔を打ち、髪が激しく乱れる。飛竜の翼が羽ばたくたびに、体が大きく揺れる。


「だ、だめ……怖い……」


「大丈夫。俺がいる」


カイはエルナが必死でしがみついている手をやさしく掴んだ。

その温もりが、少しだけエルナの恐怖を和らげた。


飛竜は高速で飛行を続ける。

風が耳元で唸り、雲が流れていく。眼下には、広大な大陸が広がっている。


「……すごい」


エルナが、おそるおそる目を開けた。

眼下に広がる光景に、息を呑んだ。


「……これが、世界……」


聖女の都の「清浄の間」から出たことがなかったエルナにとって、この光景は圧倒的だった。

広大な平原、険しい山脈、流れる川。すべてが、小さな模型のように見える。


「……きれい」


エルナは呟いた。恐怖はまだ残っている。でも、同時に、この美しい光景を見ることができた喜びがあった。


「カイ、ありがとう」


「……何を?」


「私を、ここに連れてきてくれて」


カイは少し驚いた顔をしたが、すぐに優しく笑った。


「……ああ。でも、まだ終わってないぜ」


飛竜はさらに速度を上げる。

風圧が強くなり、エルナはカイの背中にしがみついた。


「……速すぎる……」


「大丈夫だ。すぐ慣れる」


カイはそう言ったが、自分自身も慣れていない。

飛竜の背にしがみつきながら、必死にバランスを取る。


時間はゆっくりと、しかし確実に過ぎていく。

太陽が空を移動し、影が長くなっていく。


「……休憩が必要だな」


カイは飛竜に指示を出し、高度を下げ始めた。

エルナは、その瞬間が一番怖かった。急降下する感覚に、また悲鳴を上げそうになった。


「……ひっ!」


「大丈夫だ。着陸するだけだ」


飛竜は慎重に高度を下げ、平原に降り立った。

エルナは、飛竜の背から降りると、その場に座り込んだ。


「……生きてる……」


「ああ。でも、まだ半分だ」


カイも飛竜の背から降り、深く息を吐いた。

初めての飛竜移動は、想像以上に過酷だった。


「……もっと、乗りたい」


エルナは立ち上がり、再び飛竜の背に手をかけた。

恐怖はまだ残っている。でも、もう一度、空を飛びたい。


飛竜は休憩を挟みながらも、ファングレアまでの長い距離をたった1日で移動した。

これは、馬車の20倍以上の速度だ。


「……やっぱり、飛竜は速いな」


カイは降り立った飛竜の首を撫でた。

野生の飛竜を捕獲し、ノクスの重力制御とエルナの魔力増幅で一時的に従わせる。

命がけの飛行だったが、移動時間をかなり短縮できた。


「でも、もう限界よ。この子、かなり疲れている」


エルナが飛竜の翼を優しく撫でる。

野生の飛竜を無理やり従わせた反動で、飛竜の体力は限界に近づいていた。


「ああ。ここで解放しよう。

……ありがとう、飛竜さん」


カイは飛竜の首に、竜の渓谷で拾った「飛竜の卵の殻」を結びつけた。

これが、飛竜への感謝の証だ。


エルナは飛竜の首を撫でながら、優しく語りかけた。


「ありがとう。私たちを、ここまで連れてきてくれて。

……また会えるといいわね」


飛竜は大きく翼を広げ、空へと舞い上がった。

カイとエルナの上空を一度だけ大きく回ってから、飛竜の渓谷の方角へ飛び去っていった。

まるで、再会を約束するかのように。


「さあ、行くぞ、エルナ。

あと少しだ」


残り日数は3日。時間は刻一刻と迫っていた。



第5章:聖女の都 セレスティア 【完】


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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