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【第77話:命がけの調教】

【タイムリミット:残り5日】


険しい岩肌が切り立つ渓谷。空には巨大な影が舞い、鋭い鳴き声が響く。

飛竜の渓谷に到着したカイとエルナは、眼下に広がる光景に息を呑んだ。


「……あれが、飛竜か」


翼を広げれば十メートルはあろうかという巨体が、空を悠然と舞っている。

その数は十頭以上。野生の飛竜たちは、侵入者を鋭い目で睨みつけていた。


「カイ、本当にあれを捕まえられるの?」


「できるさ。ただし、時間はかかるかもしれない」


カイは懐から、商人の都でくすねていた「閃光弾」と、盗賊の都で拾った「魔物のフェロモン液」を取り出した。


「ノクス、飛竜の生態データはあるか?」


『ある。奴らは光り物を好む習性がある。

そして、極めて縄張り意識が強い。

群れのリーダーを制すれば、他の個体も従う可能性が高い』


「よし。なら、とびきりの『手土産』を用意してやろう」


カイは閃光弾を投げ上げた。空中で炸裂した光に、飛竜たちが一斉に反応する。

しかし、それは一瞬のこと。すぐに警戒の鳴き声を上げ、カイたちに向かって急降下してきた。


「ノクス、重力制御だ!」


『了解。ただし、複数頭を同時に制御するのは困難だ』


ノクスの重力場が展開され、飛竜たちの動きが鈍る。しかし、それでもなお、彼らは抵抗を続けた。


「エルナ、魔力増幅を頼む!」


「わ、わかった!」


エルナが両手を上げ、魔力を放出する。ノクスの重力制御を増幅しようとするが、飛竜の抵抗は激しく、重力場がすぐに破られてしまう。


「くっ……手強いな」


カイは飛竜の群れから一頭を選び、集中して制御を試みた。

しかし、野生の飛竜は強靭な意志を持っている。何度も重力場を振りほどき、カイたちに襲いかかってくる。


「カイ、危ない!」


エルナが叫ぶ。飛竜の鋭い爪が、カイの頭をかすめた。

カイは間一髪で身をかわし、地面に転がる。


「……これは、思ってたより、かなりやばいな」


「大丈夫?怪我は?」


「平気だ。でも、このままじゃ時間がかかりすぎる」


カイは立ち上がり、再び閃光弾を投げる。今度は、フェロモン液も同時に撒いた。

飛竜たちは一瞬、その匂いに反応したが、すぐに警戒を強めた。


「……もっと直接的な方法が必要だな」


カイは作戦を変更した。群れのリーダーを見つけ出し、その一頭だけに集中する。

ノクスの重力制御を一点に集中させ、エルナの魔力増幅もその一頭に絞る。


「ノクス、あの大きな個体を狙え」


『了解。重力場を一点集中させる』


最大級の飛竜が、突然の重力に驚いて鳴き声を上げる。

しかし、それでもなお、抵抗は激しい。翼を激しく羽ばたかせ、重力場を振りほどこうとする。


「エルナ、もっと魔力を!」


「わ、わかってる……でも、限界が……」


エルナの額に汗が浮かぶ。魔力を大量に消費し、彼女の顔色は次第に青白くなっていく。


「……無理はするな。少し休め」


「だめ。今、手を緩めたら、また最初からやり直しよ」


エルナは歯を食いしばり、さらに魔力を放出する。

飛竜は激しく抵抗したが、徐々にその動きが鈍っていく。


「……効いてきた」


カイは慎重に飛竜に近づいた。しかし、まだ完全には従っていない。

飛竜はカイを見るなり、再び激しく暴れ始める。


「くっ……まだ、だめなのか」


カイは飛竜の首に触れようとしたが、鋭い牙が迫ってくる。

間一髪で身をかわし、後ろに飛び退いた。


「カイ!」


「大丈夫だ。でも、このままじゃ……」


カイは時間を気にしていた。タイムリミットは残り5日。ここで時間を浪費する余裕はない。


「……もう一度、だ。今度こそ」


カイは深呼吸をして、再び飛竜に近づいた。

今度は、閃光弾とフェロモン液を同時に使い、飛竜の注意を逸らす。


「ノクス、今だ!」


『重力場、最大出力』


ノクスの重力制御が、飛竜を完全に押さえ込む。

エルナの魔力増幅も、飛竜の抵抗を弱めていく。


「……よし!やった」


カイは慎重に飛竜の首に触れた。今度は、飛竜が抵抗しなかった。

その目には、まだ警戒の色が残っているが、少なくとも襲ってはこない。


「……これで、少しは従ってくれるか」


カイは飛竜の首を撫でながら、ノクスに指示を出し続けた。

しかし、調教はまだ始まったばかり。飛竜を完全に従わせるには、さらに時間が必要だった。


「エルナ、少し休んでくれ。俺が様子を見る」


「……うん。でも、すぐに戻るから」


エルナは地面に座り込み、深く息を吐いた。

魔力を大量に消費したため、彼女の体は限界に近づいている。


カイは飛竜の様子を見守りながら、時間の経過を感じていた。

太陽が空を移動し、影が長くなっていく。しかし、飛竜はまだ完全には従っていない。


「……時間がかかりすぎる」


カイは焦りを感じていた。しかし、急いでも仕方がない。

野生の飛竜を無理やり従わせるのは、命がけの作業だ。一歩間違えれば、逆に襲われることになる。


「ノクス、飛竜の状態は?」


『まだ完全には従っていない。警戒心が強い。

もう少し時間が必要だ』


「……わかった。エルナ、もう一度頼む」


「うん」


エルナは立ち上がり、再び魔力を放出した。

今度は、より慎重に、より丁寧に、飛竜に魔力を送り込む。


時間はゆっくりと、しかし確実に過ぎていく。

太陽が西に傾き、夕日が渓谷を赤く染め始めた。


「……やっと、できたわ」


エルナが疲れ切った表情で呟く。

魔力を大量に消費したため、彼女の顔色は青白い。


カイの目の前で、飛竜がようやく大人しくなった。

完全に従ったわけではないが、少なくとも、カイたちを襲うことはなくなった。


「ありがとう、エルナ。

……これで、獣王の都まで1日で行ける」


飛竜の調教は、1日を要した。

野生の飛竜を完全に従わせるのは容易ではないが、ノクスの重力制御とエルナの魔力増幅により、ようやく飛竜を手なずけることができた。


「作戦名、『飛竜便ワイバーン・エクスプレス』だ。

……さあ、明日の朝、出発だ」



最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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