【第76話:追跡者たち】
【タイムリミット:残り6日】
聖女の都と、隣国との国境付近。
深い森の中を、カイとエルナは息を潜めて進んでいた。
逃走開始から、丸1日が経過している。
ようやく飛竜の渓谷の近くまで到着した。
「……しつこいな」
カイは木陰から空を見上げた。
上空には数騎のペガサスナイトが旋回し、地上では魔導探知機を持った追跡部隊が網を張っている。
「ノクス、ステルス迷彩の残量は?」
『残り15%。
これ以上の連続使用は、我のコアに深刻な負荷をかける。
……エルナの疲労も限界だろう』
カイは隣のエルナを見た。
彼女はボロボロのローブの裾を縛り、顔も泥だらけだが、文句一つ言わずに着いてきている。
だが、その足取りは明らかに重い。
「少し休もう。……あそこの洞窟なら、魔力反応を隠せるはずだ」
洞窟に入り、カイはエルナに水筒を渡した。
「ありがとう……」
エルナは震える手で水筒を受け取り、一口だけ飲んで返してきた。
「もっと飲めよ」
「ううん。カイも飲んで。
……あなたが倒れたら、私、どうしていいか分からないから」
健気すぎる。
カイは胸が痛んだ。
彼女を連れ出したのは、リリアを救うための「道具」としてだ。
なのに、彼女は俺を信頼し、頼りにしてくれている。
その時。
洞窟の入り口で、カサリと音がした。
「――見つけたぞ、異端者!!」
聖騎士たちが雪崩れ込んでくる。
数は十人。全員が武装した精鋭だ。
「チッ、嗅ぎつけられたか!」
カイはエルナを背に庇い、前に出た。
だが、武器はない。ノクスの魔力も残り少ない。
「抵抗はやめろ! 聖女様を返せば、貴様の命だけは――いや、即刻処刑だ!」
「交渉の余地なしかよ!」
騎士たちが剣を抜く。
絶体絶命。
その時、カイの背後からエルナが進み出た。
「……やめて」
「聖女様! 今、お助けします!」
「やめてと言っているの!!」
エルナが叫び、右手を突き出した。
瞬間、彼女の全身から眩い光が溢れ出す。
『同調! 術式展開、コード・王家の盾!』
ノクスが呼応し、複雑な魔法陣が虚空に描かれる。
「拒絶しなさい!!」
ドォォォン!!
洞窟内の空気が爆ぜた。
衝撃波が騎士たちを襲い、彼らの鎧ごと壁に叩きつける。
岩盤が砕け、入り口が崩落して塞がれていく。
「はぁ……はぁ……っ」
エルナが膝をつく。
魔法の反動で、彼女の細い腕が赤く腫れ上がり、煙を上げている。
「エルナ! 大丈夫か!?」
カイが駆け寄る。
「……平気。
私……あなたを守れた?」
彼女は痛みに顔を歪めながらも、嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔を見て、カイは自分の浅ましさを呪った。
彼女は道具じゃない。
リリアと同じ、守るべき仲間だ。
「ああ。助かったよ、エルナ。
……でも、無理はするな。お前が傷ついたら、俺も悲しい」
「……うん」
カイは彼女を背負った。
温かくて、軽い。
「行くぞ。ここが塞がれば、奴らもしばらくは追ってこれない」
二人は洞窟の奥、地底へと続く暗がりへと進んだ。
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