【第75話:ガルドの苦悩】視点:ガルド
剣の都レガルス、騎士団執務室。
ガルドは机に叩きつけられた報告書を睨みつけていた。
『緊急報告:聖女の都にて、聖女エルナ様が誘拐される』
『犯人は指名手配中のカイ』
「……また貴様か、カイ」
ガルドは太い指でこめかみを押さえた。
王女殺害の汚名を着せ、高額の賞金首をかけた少年。
いつ野垂れ死んでもおかしくない最弱のEランク冒険者が、まさか他国の聖女を誘拐するとは。
「団長! ザガン様より、緊急の通信が入っております!」
部下の報告と共に、執務室の魔導スクリーンにノイズが走り、白磁の仮面をつけた男が映し出された。
『やあ、ガルド騎士団長。
……困ったことになったねぇ』
ザガンの声は、相変わらず感情が読めない。
だが、その背後に潜む冷徹な怒りを、ガルドは敏感に感じ取っていた。
「……単刀直入に言え、ザガン。
貴様が裏で糸を引いているのは分かっている」
『人聞きが悪いな。私はただの被害者だよ。
あの坊やが、まさか聖女を奪って逃げるとはね』
ザガンが大げさに肩をすくめる。
『ガルド。三国連合軍を組織することを提案する。
私が資金と情報を提供する。
剣の都は、カイを処分したい。
聖女の都は、エルナを連れ戻したい。
商人の都は、私の資金力を利用したい。
……目的は違うが、手段は同じだ。
連合軍を組めば、それぞれの目的を達成できるよね?』
「連合軍だと?」
ガルドは眉をひそめた。
自分の判断で軍を動かすべきか、それともザガンの提案を断るべきか。
『聖女エルナは、世界の均衡を保つ「楔」だ。
彼女が失われれば、世界は混沌に包まれるからね』
嘘だ。
ガルドの直感が告げている。
ザガンが恐れているのは混沌ではない。
彼自身の計画――おそらくは古代文明に関わる何かが、カイによって狂わされることを恐れているのだ。
「……私の目的は、カイを処分することだけだ。」
『君に損はないだろう?』
ガルドは奥歯を噛み締めた。
リーゼ王女を殺め、クーデターを成功させたあの日。
その裏で、武器と資金を提供していたのは商人の都とザガンだった。
だが、今の自分はザガンの手先ではない。自分の判断で、自分の正義のために行動する。
「……まぁ、いいだろう。
ひとまず、その連合軍とやらに協力しよう。」
『……期待しているよ』
通信が切れる。
ガルドは拳で机を殴りつけた。
分厚い天板に亀裂が入る。
「……私は、何をしている」
リーゼ様を殺してまで手に入れた、国の平和と秩序。
だが今、自分はガルドの手先となって、かつて王女が守ろうとしたこの国に戦乱の火種をまき散らそうとしている。
「……準備をしろ! 第一騎士団、出撃だ!」
ガルドはマントを翻し、部屋を出た。
その瞳には、迷いと、それ以上の深い苦悩が宿っていた。
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