【第72話:エルナの覚醒】
【タイムリミット:残り7日】
「うわっ、なんだ!?」
胸元のノクスが、かつてないほどの熱を発している。
まるで心臓のようにドクドクと脈打ち、黒い表面に赤い幾何学模様が浮かび上がる。
『共鳴しているぞ、カイ! 彼女の生体波動が、我のコアに直接干渉してくる!』
エルナが呆然とノクスを見つめている。
彼女の瞳の色が、虚ろな硝子色から、鮮やかな真紅へと変化していく。
「……あなたが、呼んでいたの?」
エルナが震える指で、ノクスに触れた瞬間。
カッッッ!!!!!!!
視界がホワイトアウトした。
音も、感覚も、すべてが光の中に溶けていく。
(――カイ!)
(――聞こえるか、カイ!)
脳内に直接響く声。
それはノクスの声であり、同時にエルナの声でもあった。
光が収まると、部屋の風景は一変していた。
床にも壁にも、複雑極まりない魔法陣が展開され、空中に無数の数式がホログラムのように浮遊している。
それは魔法の都のどんな大魔術よりも複雑で、美しい光景だった。
『システム・アップデート完了。
第七権限、完全解放』
ノクスの声が、歓喜に震えて響き渡る。
『認証完了。第七生体コード、適合率100%。
……ようやく会えたな、鍵の管理者よ』
エルナは自分の両手を見つめていた。
震えていた指先が、今は力強く魔力を帯びている。
彼女自身が発光しているかのようだ。
『カイ、理解したか?
彼女はただの「血液タンク」ではない。
彼女自身が、我を制御し、その真の力を引き出すための生体端末なのだ』
「端末……?」
『我の「出力」と、彼女の「制御」。
この二つが揃って初めて、あのザガンの結晶化術式を解除するプログラムを組める』
カイは呆然とした。
コラルの言っていた通りだ。
血だけじゃ足りない。本人を連れて行かなければ、リリアは助からない。
「……つまり、誘拐確定ってことかよ」
国の象徴である聖女を連れ去る。
それは、聖女の都そのものを敵に回すことになる。
「上等だ……。やってやるよ」
その時、廊下から怒号が響いた。
今の光と魔力波で、ついにバレたのだ。
「曲者だ! 聖女様をお守りしろ!」
「異端審問官を呼べ!! 悪魔祓いだ!!」
扉が激しく叩かれる。
重厚な木材が、斧で叩き割られようとしている。
「チッ、囲まれたか!」
カイは身構えた。
武器はない。逃げ道も、入ってきた隠し通路じゃ小さすぎる。
「……下がって」
凛とした声が響いた。
エルナだった。
彼女は扉の前に立ち、右手をかざした。
「……開けなさい」
その言葉は、物理的な命令として世界に作用した。
ドォォォォン!!
扉が内側から弾け飛び、突入しようとしていた聖騎士たちを薙ぎ払った。
見えない衝撃波が廊下を走り、数十人の兵士たちがボウリングのピンのように吹き飛んでいく。
「な、なんだこの力は!?」
「魔法……!? 聖女様が攻撃魔法を!?」
エルナ自身も驚いたように自分の手を見ていた。
ノクスと同調したことで、彼女の中に眠っていた「王家の力」が目覚めたのだ。
「……すげぇ」
カイは口笛を吹いた。
「意外とやるじゃん、聖女様。
これなら――逃げ切れるかもな」
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