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【第70話:最後の希望】

【タイムリミット:残り7日】


通されたのは、大聖堂に隣接する迎賓館の一室だった。

豪華なシャンデリア、ふかふかのソファ、そしてテーブルに並べられた極上の料理とワイン。


だが、部屋の外には数十人の聖騎士が張り付き、窓には鉄格子が嵌まっている。

賓客という名の軟禁状態だ。


「……で、どうするよノクス」


カイはチキンを齧りながら、小声で問いかけた。


「宝珠は没収された。

聖女様への謁見は『準備中』とか言って、いつになるかわからない。

このままじゃ、拷問の準備が整うまで待機させられて終わりだ」


『カイ、大聖堂の高層部だ』


ノクスが簡潔に答える。


『この部屋から見て、大聖堂の高層部、地上30メートルの位置に強い魔力反応がある。

構造図と照合した結果、この部屋の壁の中に「聖女の居室」へ繋がる隠し通路がある。』


「大聖堂の高層部って……ここ迎賓館の3階だし、俺たち軟禁中だぞ?

どうやってそこまで行くんだよ。壁をぶち抜くのか?」


『今ならいける。耳を澄ませてみろ』


カイは食事の手を止めた。

微かに、だが確実に、重低音が響いている。

パイプオルガンの音色と、数千人の信者による賛美歌の合唱だ。


「……夕べの祈りか」


『そうだ。この振動と騒音に紛れれば、多少の破壊音は誤魔化せる』


「よし、乗った」


カイはワインボトルを手に取り、中身を壁にぶちまけた。

そして、懐から小瓶を取り出す。盗賊の都で手に入れた、石でも金属でも溶かせる強力な溶解液だ。


ジュワァァァ……。


ワインと溶解液が混ざり合い、壁の石材を腐食させていく。

酸っぱい異臭が立ち込めるが、料理の匂いと言い張ればなんとかなるレベルだ。


「行くぞ!」


オルガンの音が最高潮に達した瞬間。

カイはソファのクッションを重ねて防音壁を作り、その上から渾身の力で壁を蹴り抜いた。


ドゴォォォン!!


壁に穴があき、そのまま壁の内部へと飛び込んだ。


埃っぽいメンテナンス用の狭い通路だった。

大聖堂と迎賓館を繋ぐ、建物の間の隠し通路だ。

今のところ、誰も気づいた様子はない。


「……成功だ。さて、聖女様のお部屋はどっちだ?」


『直進100メートル。突き当たりを右だ。そこから階段を上って、高層部へ向かえ』


ノクスのナビに従い、カイは影のように進んだ。

警備は意外なほど手薄だった。

外からの侵入には鉄壁でも、内部からの、しかも建物間の隠し通路からの侵入など想定していないのだろう。


やがて、一枚の重厚な扉の前に辿り着いた。

見張りの神官が一人、椅子に座って居眠りをしている。


カイは音もなく背後に忍び寄り、頸動脈を圧迫して気絶させた。

盗賊の都で、生きるために覚えた荒っぽい技術だ。


「……失礼しますよ」


カイは緊張で汗ばんだ掌を拭い、扉を押し開けた。


そこは、白い部屋だった。

家具も装飾も最低限。生活感のない、無機質な空間。

その中央に、一人の少女が立っていた。


カイは息を呑んだ。美しく長い銀髪。透き通るような白い肌。

振り返った少女の顔は、魔法の都の地下で見た、カプセルの中の「失敗作」たちと同じ顔だ。

けれど、この少女には命が宿っている。


彼女は、侵入者であるカイを見ても悲鳴を上げなかった。

ただ、硝子玉のような虚ろな瞳で、不思議そうに首を傾げただけだった。


「……あなたが、呼んだの?」


その声は、鈴が鳴るように美しく、そして死人のように冷たかった。


カイの心臓が早鐘を打つ。

この子が、オリジナル。

リリアを救うための最後の希望であり、同時に、この残酷な計画の源流。


「……いや。俺が来たんだ」


カイは一歩踏み出した。

もう後戻りはできない。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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