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【第69話:悪意の拾得者】

【タイムリミット:残り7日】


地下深くを貫く古き鉄路の旅は、まさしく冥府への巡礼であった。

湿った石壁から漂う黴の匂い、絶え間なく軋みを上げる粗末な搬送車、そしてコラルが押しつけるように持たせてくれた、灼けるほど辛い干し肉だけが糧となった二日間。

それでも、闇の底を走り抜けた末に予定より早く辿り着けたことだけが、この苛酷な旅路の唯一の赦しだった。


ようやく地上の光が見えた時、カイは涙を流して太陽を拝んだ。


だが、感動も束の間。

目の前に現れた『聖女の都』の威容に、カイは絶句した。


「……綺麗すぎて、吐き気がするな」


白亜の城壁。空を覆うオーロラのような結界。

道行く人々は皆、清潔な白衣をまとい、穏やかな笑顔を浮かべている。


ゴミひとつ落ちていない石畳。

あまりにも完璧な「ユートピア」だ。


対して、今のカイはどうか。

泥と油にまみれたボロ布を纏い、髪はボサボサ。体からは下水道と獣の臭いが漂っている。


「完全に不審者だ。……これ、入国審査で即逮捕コースだろ」


『安心しろ。お前の懸賞金は10億だ。

不審者どころか、歩く国家予算だぞ』


懐のノクスが皮肉な慰めを言う。


「嬉しくねぇよ!

……とにかく、正面突破しかない。

コラルが貸してくれた『切符』を使う」


カイは城門へと向かった。

そこには大陸中から集まった巡礼者たちが長蛇の列を作っている。

病気の子供を抱えた母親、罪の許しを乞う老人。

彼らの目は必死で、そして異様なほどに熱を帯びていた。


カイはその列を無視し、警備兵の詰め所へと直行した。


「おい貴様! 列に並べ!

というか、なんだその汚い格好は! 聖なる都が穢れる!」


槍を構えた聖騎士たちが、露骨な嫌悪感を向けてくる。

カイは怯むことなく、ニヤリと――薄汚れた顔で精一杯の営業スマイルを作った。


「お勤めご苦労さまです、聖騎士様。

……実は、聖女様へのお届け物がありましてね」


「戯言を! 聖女様はお前のような浮浪者には会われん!

さっさと立ち去れ、さもなくば……」


「これを見ても、そう言えますかね?」


カイは懐から、布に包んだ『物体』をわずかに覗かせた。


カッッッ……!


隙間から漏れ出した強烈な光が、騎士たちの目を射抜く。

太陽の欠片を閉じ込めたような、神々しい輝き。


「なっ……こ、これは……!?」

「まさか、先日の盗難騒ぎで行方不明になった……『白夜の宝珠ミッドナイト・サン』!?」


騎士たちが狼狽する。

盗賊の都で盗まれた、国宝級の秘宝。

それがなぜ、こんな浮浪者の手にあるのか。


「拾いましてね。

これ、直接、聖女エルナ様にお返ししたいんですが……通してもらえます?」


「き、貴様……盗んだのか!?」


「人聞きが悪いな。

盗人がわざわざ正面から返しに来ますか?

……俺は善意の拾得者ですよ。

もし通してくれないなら、このままこれを持って隣国へ売りに行きますけど……いいんですか?」


カイは宝珠を懐にしまいかける。

騎士団長らしき男が、慌てて制止した。


「ま、待て!

……わかった。確認をとる。

だが、妙な真似をすれば即座に斬り捨てるぞ!」


「へいへい。感謝しますよ」


カイは心の中でガッツポーズをした。


(チョロいもんだ。……いや、こっからが本番か)


門が開く。

聖なる都の輝きが、カイを飲み込む。


聖女の都に到着してから、エルナとの接触、信頼関係の構築、そして脱出計画の準備が進められていた。

残り日数、7日。

リリアを救うための最後のピース。

聖女の血と、その身柄を奪うための、大胆不敵なペテンが始まった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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