【第6話:王女の決断】視点:リーゼ
剣と剣がぶつかる衝撃が、腕から全身へ伝わる。
リーゼは歯を食いしばる。
ガルドの大剣を受け止めた。
(重い……! これがガルドの力……!)
細身のレイピアでは、この怪物の一撃を受け続けることはできない。
十秒持てば奇跡だ。
だが、リーゼに迷いはなかった。
「逃げろ、カイ!! そなたは死んではならぬ!!」
あの少年の目を見た瞬間、わかったのだ。
彼が持つ黒い球体――ノクスは、本物だ。
古の予言にある《黒き星の同伴者》。
七都市の運命を導く存在。
リーゼは王女として、多くの古文書を読んできた。
ノクスが目覚める時、世界は大きく動く。
それが破滅か救済かは、契約者次第だと。
(あの少年……怯えているのに、諦めていない目をしていた。
ならば、賭ける価値がある)
ガルドが嗜虐的な笑みを浮かべる。
「どうした、姫殿下。王宮の舞踏会より足元がお留守だぞ?」
「黙れ……裏切り者め……ッ!」
剣を弾き返すが、圧倒的な質量差にジリジリと押されていく。
リーゼの脳裏に、幼い頃の記憶がよぎった。
母に連れられて見た、下層街の子供たち。
飢えた目。
それでも笑おうとする顔。
「いつか、この子たちを救える王になりなさい」と母は言った。
私は王になりたかった。
この腐った王宮を変え、民を救う王に。
だが――今の私には、その力がない。
「リーゼ様!!」
リリアの叫びが聞こえる。
だが、彼女がガルドに近づけば、巻き添えで死ぬ。
ガルドは近衛騎士団長。個の武力において、A級のリリアですら相手にならない。
(リリア……4年前から、いつも私の本音を聞いてくれた。
この王城の中で、裏切り者の多い中で、
あなただけが私を本当の私として見てくれた。
だから、あなたを巻き添えにはできない)
リーゼは心の中で、静かに覚悟を決めた。
(ならば、私の命に意味を持たせよう。
リリア、あなたにカイを託すわ)
カイの目と、リーゼの目が合った。
あの少年は苦しんでいる。
会ったばかりの王女のために、必死で助ける方法を考えている。
その目に、リーゼは確信を得た。
(この少年は……本物だ。
弱いのに、誰かのために命を賭けようとしている)
リーゼは微笑んだ。
「カイ。そなたは生きろ」
「何言ってんだよ! 一緒に逃げれば――」
「私は逃げない。逃げれば、そなたたちが死ぬ」
ガルドの一撃がリーゼの防御を砕く。
膝が折れ、血が口から溢れる。
それでもリーゼは立っていた。
「私の勘は当たるのだ」
リーゼは最後の力を振り絞り、跳ね橋の操作レバーに倒れ込んだ。
ガシャンッ!!
錆びついた鎖が鳴り、跳ね橋が上がり始める。
空の色は完全に紫から黒へと変わり、星が瞬き始めていた。
カイとリリアがいる側と、リーゼとガルドがいる側を分断するように。
「王女様!? 何やってんだよ、こっちに来てよ!!」
カイが手を伸ばす。
その必死な顔を見て、リーゼは微笑んだ。
それは王族としての仮面ではない、一人の少女としての心からの笑顔だった。
「……行け、カイ。
生きて、抗え。
そなたは……ただの弱者ではない。
この腐った七都市を……変える、光になれ……」
「そんなのどうでもいい! 死んじゃダメだ!!」
ガルドが近づいてくる。
もう時間がない。
リーゼはふと、空を見上げた。
星が瞬いている。
(母上……私は正しいことができたでしょうか。
この命を、未来のために使えたでしょうか……)
「リリア! 彼を頼む!! あなたなら、きっと――」
リーゼの悲痛な叫び。
その言葉は、単なる依頼ではなく、最も信頼するリリアへの最後の願いだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
少しでもお楽しみいただけましたら、
広告の下にある 【★★★★★】 を押して応援していただけると、執筆の励みになります!
↓↓↓ 広告下のこちらより ↓↓↓
(※感想もお待ちしております。)




