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【第54話:誰も信じない街】

【タイムリミット:残り25日】


ザラから貰った地図を頼りに、裏ルートから都市内部へ侵入する。

街に入った瞬間、四方八方から突き刺さる視線を感じた。


物乞い、売春婦、酔っ払い――その全員が、カイという「新入りの獲物」を値踏みしている。

彼らにとって、他所者は歩く財布でしかない。


(右の屋根に二人。左の路地に三人。……正面から来るのが囮か)


カイは歩調を変えない。

正面から、薄汚れた少年がふらふらと近づいてきた。

十歳くらいだろうか。痩せこけて、目がぎらついている。


「ねえ、お兄ちゃん。お腹空いたんだ。小銭ない?」


少年がカイの腰元に手を伸ばす。

それは物乞いの手ではなく、財布の紐を切る手つきだった。


通常なら、以前のカイなら、慌てて拒否するか、逃げ出しただろう。

だが、今の彼は違った。


ガシッ。


「――っ!?」


カイは少年の手首を掴み、その裏に隠されていた剃刀のようなナイフを露わにさせた。


「な、なんだよ離せ!」


「下手くそだな。小指が浮いてるぞ」


カイは淡々と言い放ち、少年の耳元で囁いた。


「この路地の奥に潜んでるお前の仲間――『赤蛇団レッド・スネーク』の連中に伝えろ。

俺に手を出せば、お前らが先月、上納金を誤魔化してネコババした証拠を《盗賊王》にバラすぞ、とな」


少年の顔色が青ざめた。


「な、なんでそれを……!?」


「商人の都の情報屋を甘く見るな」


大嘘だ。

カイはただ、ノクスの視覚で少年の腕にある刺青(赤蛇のマーク)を読み取り、

街の落書きから「赤蛇団が最近羽振りがよすぎる」という情報を繋ぎ合わせ、カマをかけただけだ。

だが、「盗賊王」という絶対的な恐怖と組み合わせることで、その嘘は真実以上の重みを持つ。


少年は悲鳴を上げて逃げ去り、路地の奥の気配も蜘蛛の子を散らすように消えた。


『……ふむ。呼吸をするように嘘をつくようになったな』


「この街の公用語だろ?」


カイは懐の鍵を握り直した。

誰も信じない。誰も頼らない。

それが、リリアのいない世界で生きるための、唯一のルールだ。


だが、ふと路地の向こうに、金髪の女性の後ろ姿が見えた気がして――カイは足を止めた。


「……リリア、さん?」


もちろん、誰もいない。ただの幻影だ。

カイは唇を噛み、再び歩き出した。

足を止めている時間はない。


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