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【第51話:残り一枚のチップ】

【タイムリミット:残り30日】


カイが向かったのは、カジノ『黄金の天秤』の裏口だった。

ザラに助けられた場所ではない。あえて、彼女がビジネスを行う場所へと戻ってきたのだ。


「……まだ何か用があるのかしら、坊や」


裏口の搬入口で待ち構えていたのは、ザラだった。

彼女は驚く様子もなく、煙管をくゆらせている。

先ほどポーションをくれた時の、どこか人間味のある表情は消え、冷徹な情報屋の顔に戻っている。


「用ならあるさ。ザラさん」


カイは一歩も引かずに、彼女を見据えた。

さっきまでの怯えた子犬のような目は、もうしていない。


「俺はこれから盗賊の都へ行く。

そこへの『安全なルート』と、盗賊王への『紹介状』が欲しい」


ザラは目を丸くし、それからケラケラと笑った。


「あなた、自分が何を言ってるか分かってる?

私に売られた身で、しかも命を拾われた直後に、よくもまあ図々しく頼めたものね」


「ビジネスだろ?

あんたはザガンに俺たちを売って大金を稼いだ。

……次は、俺に投資しないか?」


カイはポケットを探った。

泥だらけのズボンの中に、奇跡的に残っていた硬い感触。

拘束された時に奪われず、隠しポケットの奥底に縫い付けておいた最後の希望。


カジノで勝ち取った、最後の一枚。

換金し忘れていた、100ゴールド分のチップ一枚だ。


カイはそれを親指で弾き、ザラへと投げた。


「これが全財産だ。

これを手付金にして、俺という『大穴』に賭けてくれ」


ザラはチップを片手で受け止める。

泥がついた、安っぽいチップ。


「……たった100ゴールドで、ぼろ雑巾のような男を買えと?」


「安いだろ?

もし俺が勝てば、あんたは『ザガンを倒した英雄のスポンサー』になれる。

ザガンが支配する今の窮屈な商売より、ずっとデカい利益が出るはずだ」


それは、ただのハッタリだ。

根拠なんて何もない。

だが、カイは知っていた。

この女狐が、金以上に「スリル」と「可能性」に飢えていることを。

そして何より――さっき俺を生かした理由が、そこにあることを。


ザラはしばらくチップとカイを交互に見つめ、やがてため息をついた。


「……本当に、馬鹿な男」


ザラは懐から一枚の羊皮紙と、小さな鍵を取り出し、カイに投げ渡した。


「南の廃坑道から抜けるルートが書いてあるわ。検問はない。

その鍵は、盗賊の都にある私の隠れ家のものよ。好きに使いなさい」


「……恩に着るよ」


「勘違いしないで。これはビジネスよ。

……死んだら、そのチップの分まで地獄で働いてもらうからね」


ザラは背を向け、手を振った。


「へいへい。

……あばよ、女狐さん。

次はリリアさんも連れて、カジノを破産させに来るからな」


カイもまた背を向け、歩き出した。

振り返らない。

背中に、ザラの複雑な、しかし確かな期待を含んだ視線を感じながら。


これで、最初の足場はできた。

あとは、進むだけだ。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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