【第49話:タイムリミット】
『ザガンの術式を解析した』
ノクスがカイの視界にホログラムを投影する。
ノイズ混じりだが、そこには複雑な数式と、二つの光点が示されていた。
『あれは「時間停止」と「物質変換」の複合魔法だ。
解除するには二つの鍵が必要になる』
「二つの鍵……」
『その前に、残酷な事実を告げておく。
猶予は「30日間」だ』
「30日……?」
『今の彼女は仮死状態にあるが、結晶化の進行は止まっていない。
結晶化した瞬間から30日間を、1秒でも過ぎれば、物質変換が完了し、彼女の魂は完全に消滅する。
……そうなれば、ただのオブジェクトだ。神でも戻せない』
カイは息を呑んだ。
30日。
世界を敵に回して戦うには、あまりにも短い。
『絶望している暇はないぞ。
……一つ目の鍵だ。
術式を反転させるための「逆位相コード」。
これは、魔法の都でスレンが探していた《人造聖女のオリジナルの血液》に含まれている可能性が高い』
「聖女の血……。
つまり、『聖女の都セレスティア』にいる聖女様か」
カイは地図上の北西の方角を見た。
そこは宗教国家。近づくだけで異教徒として捕まるかもしれない場所だ。
『そうだ。だが、それだけでは足りない。
反転術式を発動させるには、膨大な魔力エネルギーが必要だ。
ザガンの要塞を丸ごと焼き尽くすほどのな』
「そんな魔力、どこにあるんだよ。
俺の魔力は、スライム以下だぞ」
『ここにある』
ノクスが明滅した。
『我だ。
我の封印された機能――第七権限を解放すれば、理論上は可能だ』
カイはノクスを握りしめた。
この黒い球体は、かつて世界を滅ぼす兵器だったと言っていた。
その力を、今度は人を救うために使うのか。
「……わかった。
で、その権限を解放するにはどうすりゃいい?」
『鍵が必要だ。
我のセキュリティを解除できるのは、古代七王家の血を引く者か、それに準ずる権限を持つ者だけだ』
ノクスは地図上の南側、一点を指し示した。
『この街から南東へ。
無法者たちが集う地下都市――『盗賊の都カラン』。
そこに、かつて我の管理者だった一族の末裔の反応がある』
「盗賊の都……」
世界で一番治安が悪く、嘘と裏切りが支配する街。
リリアがいれば「私が斬り伏せるわ」と笑ってくれたかもしれない。
でも今は、俺一人だ。
『我も、今は満足にサポートできない。
戦闘能力は皆無。索敵範囲も半径5メートルが限界だ。
……それでも行くか?』
試すような問いかけ。
カイは懐から、『美しい宝石の指輪』を取り出した。
あの日、リリアにプレゼントした安物の髪飾りと同じ色をした『本物の宝石の指輪』だ。
いつかリリアに渡せる日が来ると信じて、こっそり買っておいたのだ。
キラキラと光る指輪の宝石を見つめていると、恐怖よりも強い感情が湧き上がってくる。
「……行くさ」
カイは指輪を強く握りしめ、ポケットにしまった。
「復讐じゃない。
俺は……リリアさんを助けたい。
また一緒に飯を食って、馬鹿話をして……一緒に歩きたいんだ」
あの時、リリアは言った。
『逃げるなら、死ぬ気で生き延びなさい』と。
そして最期に、俺を庇って笑った。
『愛してるわ、相棒』と。
「ノクス。俺はもう逃げない。
……いや、訂正する。
俺は『絶望』から逃げてやる。
リリアさんがいる『希望』の場所まで、全力で逃走してやるよ!」
『フン。……悪くない詭弁だ。
契約者よ、その意気だ』
カイは川の水で顔を洗った。
冷たい水が、覚悟を定着させていく。
Eランク冒険者カイ。
戦闘力ゼロ。所持金ゼロ。仲間ゼロ。
あるのは、10億の賞金首と、世界一の逃げ足だけ。
「……さあ、反撃開始だ」
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
少しでもお楽しみいただけましたら、
広告の下にある 【★★★★★】 を押して応援していただけると、執筆の励みになります!
↓↓↓ 広告下のこちらより ↓↓↓
(※感想もお待ちしております。)




