【第4話:黒鉄の密議】視点:ガルド ★新規POV
王城の最奥、騎士団長の私室。
窓から差し込む薄紅の夕光の中で、ガルドは机上の古い地図を睨みつけていた。
アル=ヴェルド大陸全土を描いたその地図には、七つの迷宮都市が東西に連なるように配置されている。
剣の都レガルスは、その中央部に位置していた。
「……ついに目覚めたか、ノクス」
近衛騎士団長、《黒鉄のガルド》。
その巨躯と圧倒的な武力は、剣の都レガルスにおいて恐怖と畏敬の象徴だった。
迷宮が脈動した瞬間、ガルドは《鍵》の覚醒を悟っていた。
「……あの揺れはノクスだ。問題は、誰が持ち去ったかだ」
彼の手には、しわくちゃになった一通の密書が握られている。
影衛隊の兵が続報を差し出す。
迷宮深部で発生した異常な魔力反応。
そして、それを持ち去った一人のEランク冒険者の報告。
「カイ、か。取るに足らない存在だが……ノクスがその男を選んだ以上、無視はできん」
ガルドは窓辺に立つ。
眼下に広がる王都を見下ろした。
一見、平和で繁栄しているように見えるこの都市。
だがその内実は、腐臭を放つほどに澱んでいる。
王は老いて判断力を失った。
貴族たちは私欲に溺れる。
民は重税にあえぐ家畜と化した。
かつて七都市最強と謳われた剣の都は、今や内側から崩壊しつつある。
「秩序を取り戻すには……力による改革が必要だ」
ガルドの信念は揺るがない。
彼は王に忠誠を誓うだけの盲目な騎士ではない。
この国を――いや、七都市すべてを救うための《革命家》だ。
私室の扉が開き、数人の黒鎧の騎士が入ってきた。
影衛隊。王城直属の隠密部隊――だが、今やその忠誠はガルドに向いている。
「団長、準備は整いました。いつでも火を放てます」
「ノクスの保持者は?」
「下層街に逃げ込んだ模様です。A級冒険者リリアと接触した形跡があります」
ガルドは太い眉をひそめた。
「リリア……あの気紛れな剣士か。厄介だな」
「排除しますか?」
「いや、泳がせろ。彼女がノクスの保持者を守るなら、それはそれで都合がいい。
まとめて始末できる」
ガルドは地図の一点を指差した。
王城の中枢、第一王女の私室だ。
「問題は……リーゼ王女だ。
あの方は聡い。
我々の動きに気づいているかもしれん」
「では、王女殿下も……?」
沈黙が部屋を支配した。
ガルドは長い間、リーゼ王女を見てきた。
幼い頃から聡明だった。
誰よりも民を思い、腐敗した王宮において唯一の希望の光だった。
彼女が王位を継げば、この国は正しい形に変わるかもしれない。
ガルド自身、彼女に忠義を尽くしたいと願ったこともあった。
だが、それを待つ時間は、もうない。
世界は刻一刻と、破滅へと向かっているのだから。
「……革新には犠牲が伴う」
ガルドは静かに、だが鋼鉄のように冷徹な意志で告げた。
「王女殿下には申し訳ないが、邪魔をされるなら排除するしかない。
これは私情ではない。
七都市全体の未来のためだ」
歪んだ正義。
だが彼にとっては、それこそが唯一の救済だった。
影衛隊の隊長が深く頷く。
「御意」
ガルドは大剣を手に取り、鞘から抜いた。
沈みゆく夕陽に照らされた刃が、血を求めて冷たく輝く。
「今夜だ。《影の粛清》を開始する」
命令が下された。
剣の都を揺るがすクーデターの幕が、静かに上がろうとしていた。
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