【第39話:ステージの二人】視点:リリア
ステージへと続く暗い通路。
鎖に繋がれて歩きながら、リリアは前を行くカイの背中を見つめていた。
(小さい背中)
出会った頃は、頼りなくて、すぐに逃げ出しそうな背中だと思っていた。
でも今は違う。
恐怖に震えながらも、必死に前を向こうとしている。
(……もしもの時のために)
リリアは、通路からステージの床下にある隙間をちらりと見た。
そこには、あらかじめリリアの愛剣を隠してある。
(もしも戦いになれば、愛剣はすぐ取り出せる)
「……ねえ、カイ」
リリアは小声で囁いた。
「もし、ここで捕まって……どうしようもなくなったら。
あなたは私を見捨てて逃げなさい」
「は?」
カイが驚いて振り返る。
「あなたの『逃げる才能』は本物よ。
私という重石がなければ、きっとどこへだって逃げられる」
これは本心だった。
会場に漂う異様な殺気。
A級冒険者としての直感が告げている。
今日の敵は、今までとは次元が違う。
もし最悪の事態になったら、せめて彼だけでも。
リーゼ様が託した「希望」だけでも、守り抜きたい。
それが、私の剣士としての……いいえ、一人の女としての最後の願い。
だが、カイは鼻で笑った。
「断る。ワリに合わない」
「ワリ?」
「俺一人で逃げても、どうせ野垂れ死ぬだけだ。
俺には戦う力がない。だから、あんたという最強の剣が必要なんだよ」
カイはリリアの手枷の上に、自分の手を重ねた。
その手は震えていたけれど、温かかった。
「俺はあんたを利用する。あんたは俺を利用する。
……そうやって二人で生き延びて、あいつらに復讐するんだろ?」
(……バカね)
不器用な嘘。
私を安心させるための、精一杯の強がり。
リリアの胸が熱くなった。
この感情に名前をつけるには、今はまだ状況が悪すぎる。
けれど、一つだけ確かなことがある。
(何があっても……私が彼を守る)
リリアは微笑み、カイの手を握り返した。
「……そうね。バカなこと言ったわ。ごめんなさい、相棒」
通路の突き当たり。
眩しいライトの光が、二人を飲み込もうとしていた。
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