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【第38話:闇の競売(ダーク・オークション)】

商人の都の地下深く。

選ばれし者しか足を踏み入れることを許されない、巨大な円形劇場があった。


『闇の競売ダーク・オークション』。

表の世界では決して扱えない「禁忌の品」が取引される、欲望の掃き溜めだ。


カイは今、その舞台裏にある狭い檻の中にいた。

首には重厚な鉄の首輪。手首には魔力を封じる手枷。

そして隣には、同じく拘束されたリリアがいる。


「……作戦通りとはいえ、気分のいい場所じゃないな」


カイは檻の格子の隙間から、外の様子を窺った。

壁一枚隔てた向こう側からは、地鳴りのような熱気と、腐臭のような欲望の気配が漏れ出してきている。


「カイ、大丈夫?」


リリアが心配そうに声をかけてくる。

彼女は今、透けるような薄い白い布地のドレスを纏った「商品」の姿だ。

体のラインが美しく見える優雅な衣装だが、首には重厚な鉄の首輪、手首には魔力を封じる手枷がつけられている。

だが、その瞳だけは少しも曇っておらず、剣士としての鋭い光を宿している。


「ああ。……ザラさんの手引きで『商品』として潜入するまでは成功だ。

問題はここからだ」


カイはノクスを起動し、周囲の魔力反応を探った。

この会場には、スレンが探していた「人造聖女の血液」が出品されるはずだ。

それがステージに出された瞬間、カイが停電を起こし、その混乱に乗じてリリアが奪取して逃げる。


シンプルだが、失敗すれば即座に殺されるかもしれない綱渡りの計画だ。


『カイ、気を引き締めろ。

壁の向こうにいるのは、金を持て余した豚どもだけではない。

……もっと質の悪い、血の匂いがする連中がいる』


ノクスがかつてないほど強い警告を発する。


「ああ、分かってる。

……俺もなんだか、嫌な予感がするんだ。

背筋が凍るような、この感覚……」


カイは震える手を隠すように握りしめた。

カジノでの勝負、バルコニーでの約束。

順調すぎた日々が、逆に不安を煽る。

まるで、嵐の前の静けさのような。


「大丈夫よ、カイ」


リリアが、拘束された手でそっとカイの手に触れた。


「何があっても、私が守る。

……約束したでしょう? 二人で田舎に行くって」


その言葉に、カイは少しだけ救われた気がした。

そうだ。俺たちには未来がある。

こんな薄暗い地下で終わるわけにはいかない。


その時、控室の檻の扉が開いた。

仮面をつけた黒服の男が無機質な声で告げる。


「商品番号108番、109番。……出番だ」


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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