【第31話:不慣れなダンス】視点:リリア
カジノのエントランスホールでは、毎夜のように華やかな舞踏会が開かれていた。
生演奏のジャズが流れ、着飾った紳士淑女がグラスを片手に談笑している。
「うわ……人が多い」
カイが小声で呟く。
彼の腕を組むリリアの手にも、自然と力が入る。
「笑顔よ、カイ。
成金らしく、もっとふんぞり返ってなさい」
「無理言うなよ。俺、Eランクだぞ?
こんなキラキラした場所、人生で初めてだ」
二人がフロアに進むと、周囲の視線が集まった。
主にリリアに。
「おい、見ろよあの美女」
「どこの貴族だ? 見たことない顔だが」
「連れの男は……なんだ、ありゃ。随分と貧相だな」
値踏みするような視線。嫉妬と好奇心。
リリアはそれらを優雅な微笑みで受け流しつつ、内心では冷や汗をかいていた。
(ドレスの裾が長すぎる……! 踏んだら転ぶわ、これ!)
「……踊ろうか、リリア」
カイが不意に手を差し出してきた。
「は? あんた、踊れるの?」
「基本ステップくらいはな。
ここで壁の花になってたら怪しまれる。……行くぞ」
強引に手を引かれ、ダンスフロアの中央へ。
音楽に合わせて、二人は身体を動かす。
カイのリードは、驚くほどぎこちなかった。
「ちょ、足! 踏んでる!」
「わ、悪い! リズムが変則的すぎるんだよ!」
「ワン、ツー、スリーよ! 私の足を見なさい!」
小声で言い争いながらも、二人は回る。
カイの手が、リリアの腰に添えられている。
その温もりが、薄いドレス越しに伝わってくる。
ふと、リリアはカイの顔を見た。
必死な顔。
汗をかいて、眉を寄せて、一生懸命にリードしようとしている横顔。
(……ふふふ)
剣の都の迷宮で出会った時は、ただの弱虫だと思っていた。
逃げることしか考えない、情けない少年だと。
でも今は。
10億の賞金首になっても、こうして私の手を引いてくれている。
「……カイ」
「ん?」
「悪くないわよ。……そのステップ」
リリアは少しだけ、カイの肩に頭を預けた。
「……任務だからな」
カイの照れ隠しの声が聞こえる。
周りの喧騒が、少しだけ遠のいた気がした。
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