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【第30話:潜入:成金夫婦作戦】

「……で、なんでこうなるのよ」


リリアの不満げな声が、高級ホテルのスイートルームに響いた。


彼女は今、動きやすい革鎧ではなく、背中が大きく開いた真紅のイブニングドレスを身にまとっていた。

金色の髪は優雅に結い上げられ、普段の凛々しい剣士の面影はどこへやら、どこぞの国の王女のような気品を漂わせている。


「似合ってるよ、リリアさん。

マジで、どこの貴族様かと思った」


カイもまた、慣れないタキシードに身を包み、鏡の前で襟元を直していた。

スレンからくすねてきた資金の大半を使い込み、二人は身分を偽装してこのホテルにチェックインしたのだ。


「茶化さないで。……このヒール、歩きにくいったらありゃしない」


リリアはふらつきながら、慣れないハイヒールでカーペットを踏みしめる。


「我慢してくれ。

設定は『地方の鉱山で一発当てた成金の放蕩息子と、その若き美人妻』だ。

金回りの良さをアピールして、情報屋ザラの興味を引く。

向こうから接触してくるのを待つんだ」


カイは窓の外を見た。

眼下には、欲望の都の夜景が広がっている。

この街のどこかに、スレンが言っていた「人造聖女計画」に必要な『オリジナルの血液』があるはずだ。


「……ねえ、カイ」


リリアが少し顔を赤くして、もじもじと言った。


「部屋、一つしか取らなかったの?」


「スイートだぞ? 二部屋も取ったら資金が尽きる」


「で、でも……ベッド、一つよ?」


巨大な天蓋付きのキングサイズベッドが、部屋の中央に鎮座している。


カイは咳払いをして、視線を逸らした。


「任務だ。……背中合わせで寝れば問題ないだろ。

それに、いつ刺客が来るかわからない。離れて寝るのは危険だ」


「……うぅ。

わかってるけど……意識しちゃうじゃない」


リリアの小さな呟きは、カイには聞こえなかったことにした。

心臓が早鐘を打っているのは、彼も同じだったからだ。


「さあ、行くぞハニー。

まずはカジノで、派手に金をばら撒くショーの開演だ」


「……誰がハニーよ。あとで覚えてなさい」


リリアはカイの腕に手を回した。

その指先が少し震えているのを、カイは愛おしく感じながら、ホテルの廊下へと歩き出した。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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