表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/94

【第15話:魔法学園潜入】

「……お嬢様。お茶の時間でございます」


カイは教室の隅で、恭しく紅茶を差し出した。

ただし、その顔は死んだ魚のように虚ろだった。


ここは魔法学園の特別進学クラス。

スレンの手引きにより、二人は身分を偽装して潜入していた。


設定はこうだ。

地方貴族の令嬢にして天才剣士――リリア・フォン・アインツベルン。

そして、その実家の納屋で拾われた、冴えない下男兼・荷物持ち――カイ。


「ありがとう、カイ。……ふふ、皆が見ているわよ? もっと背筋を伸ばしなさい」


リリアは優雅にカップを受け取り、完璧な令嬢スマイルを浮かべながら小声で囁いた。

制服の着こなしも、立ち居振る舞いも、どこからどう見ても深窓の令嬢だ。

王宮仕込みのマナーが、こんなところで役に立つとは。


「勘弁してくださいよ……。なんで俺が下男なんですか」


「適役じゃない。

それに、あなたのその貧相な顔立ちじゃ、貴族の三男坊でも無理があるわ」


「うるせぇ!」


『諦めろ、カイ。任務だ。

それに、制服姿のリリアに顎で使われるのも、そう悪くはあるまい?』


ノクスが胸ポケットの中でニヤニヤと振動する。


カイは教室を見渡した。

エリート魔術師の卵たちが、遠巻きにリリアを見て噂している。


「あの方が噂の転入生……剣術科の特待生だって」

「綺麗ねぇ。でもあのお付きの人、なんかパッとしないわね」

「そうね。うちの制服が似合わない貧相な顔立ちよねー。」

「きっと実家の慈悲で置いてもらってるのよ。可哀想に」


(……言いたい放題だな、おい)


だが、この「空気のような扱い」は、カイにとって好都合だった。

目立つのはリリア。カイはその影で、こっそりと情報を探る。


「……ねえ、カイ」


リリアが紅茶を飲み干し、悪戯っぽく微笑んだ。


「放課後、案内しなさい。

……下男なら、主人の護衛は当然でしょう?」


「へいへい、お嬢様」


カイはわざとらしく頭を下げた。

その視線の先で、リリアが楽しそうに、少しだけ素の顔で笑った気がした。


放課後。

カイとリリアは、図書館の前で合流した。


「……目立ちすぎですよ、お嬢様。

廊下を歩くだけでファンクラブができてるじゃないですか」


「あら、人徳よ。

……それに、こうして堂々と歩けるの、久しぶりだから」


リリアは制服のスカートをふわりと揺らし、図書館の天井を見上げた。


「私は幼い頃から剣の修行と任務ばかりだったから。

普通の女の子みたいに、友達と笑ったり、寄り道をしたり……そういうのに縁がなかったの」


リリアの瞳に、寂しさと、微かな憧れが揺れる。


「だから、この任務……少しだけ、楽しいわ」


カイは口を閉ざした。

いつ死ぬかもわからない逃亡生活の中で、この学園生活は「かりそめの青春」だ。


「……任務が終わったら、また来ましょうよ」


カイは荷物を持ち直しながら、ぶっきらぼうに言った。


「身分偽装じゃなくて、ちゃんと正規の手続きでさ。

そん時は俺も、下男じゃなくて同級生として隣を歩きますから」


リリアが目を丸くし、それからふわりと笑った。


「……ふふ。生意気ね、下男のくせに。

でも……そうね。それも楽しそうだわ」


図書館の奥。

一般生徒立ち入り禁止区画の扉の前で、二人は足を止めた。


「ここか」


カイはノクスを起動する。

扉にかかった複雑な魔法鍵の構造が、赤い線となって視界に浮かび上がる。


『三重複合結界か。解除には200秒かかる』


「長いな。見回りが来るぞ」


「私が引きつけるわ」


リリアが制服の袖をまくった。


「誰か来たら、私が《道に迷った世間知らずのお嬢様》を演じて時間を稼ぐ。

その間に開けて」


「演技なんてできんの?」


「失礼ね。

……あら、先生! ごきげんよう! わたくし、迷ってしまいまして!」


リリアはいきなり声を張り上げ、通路の向こうから歩いてきた教師に向かって駆け出した。

その声色は、普段より1オクターブ高く、甘ったるい。


「きゃっ! 足が……!」


ドサッ。

わざとらしく転んでみせるリリア。

教師が慌てて駆け寄る。


「だ、大丈夫かね!? アインツベルン君!」


「はい、でも足首が……。先生、少し肩をお借りしてもよろしいですか?」


上目遣い。潤んだ瞳。

完璧なハニートラップだ。教師の顔が真っ赤になっている。


(……すげぇ。女って怖ぇ)


カイは冷や汗を流しながら、扉の解錠作業を急いだ。

リリアが稼いでくれた時間、1秒も無駄にはできない。


ジジジ……カチャリ。


「開いた!」


カイが目で合図を送ると、リリアは「あ、痛みが引きましたわ! 奇跡です!」と言ってスタスタと戻ってきた。

教師は狐につままれたような顔で取り残されている。


「……お見事です、お嬢様」


「当然よ。さあ、行くわよカイ」


二人は禁断の扉の奥、闇の中へと足を踏み入れた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


少しでもお楽しみいただけましたら、

広告の下にある 【★★★★★】 を押して応援していただけると、執筆の励みになります!


↓↓↓ 広告下のこちらより ↓↓↓

(※感想もお待ちしております。)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ