【第13話:変人魔術師スレン】視点:スレン ★新規POV
面白い。
これは、実に面白い。
スレンは片眼鏡越しに、路地裏で警戒態勢をとる二人組を観察していた。
泥まみれで疲労困憊の少年と、殺気を隠そうともしない金髪の剣士。
明らかに、長い逃走の末にここに辿り着いた《ワケアリ》たちだ。
だが、スレンの興味を引いたのは彼ら自身ではない。
少年の胸元にかかる、あの《黒い球体》だ。
一見すると古い魔道具のペンダントに見えるが、スレンの目にはそれが本物の古代魔具だと映った。
(間違いない。あれは本物の古代魔具だ)
スレンの心臓が高鳴った。
知的好奇心という名の獣が、理性の檻の中で暴れ回る。
「ボクのことは、どれくらい知ってる?」
少年――カイが怯えながらも答えた。
「剣の都で……ノクスが言ってた。あんたならノクスの秘密を知ってるって」
(ノクス……古代七王家の遺産。伝説の《鍵》が、自ら情報を渡した?)
これは想定外だ。
スレンは数年前から、評議会に隠れて古代文明の研究に没頭していた。
その過程で《ノクス》という存在を知り、いつか出会いたいと願っていたが、まさか向こうからやってくるとは。
「……解剖させてくれない?」
「はいぃぃ?」
スレンはポケットから銀色のメスを取り出し、チャキリと刃を出した。
「君ごと切り開けば、この魔具との神経接続の構造が分かるかもしれない。
麻酔は打つよ? たぶん」
「お、お、お断りします!!」
少年の必死な拒絶。
隣に立つ剣士、リリアが剣を抜き放ち、スレンの喉元に切っ先を突きつける。
「冗談に聞こえませんわ。……次、動いたら斬ります」
速い。A級クラスの踏み込みだ。
だが、スレンは動じずに微笑んだ。
「冗談さ。……半分くらいはね」
スレンはメスをしまい、大げさに両手を広げた。
スレンは彼らを自分の研究室へ案内することにした。
賢者の塔の最上階。
ここは、塔内でも特別に許可された者しか立ち入れない聖域だ。
「さて、取引をしよう、カイ君」
研究室のソファに二人を座らせ、スレンはコーヒーを淹れた。
「ボクはこの塔の最上階に住むことを許されている《特級研究員》だ。
君たちを匿う権限がある。
魔力探知網のデータも、ボクが改ざんしてあげよう」
「……その対価は?」
カイが警戒心を解かずに問う。
臆病だが、交渉の基本はわかっている目だ。
「君とノクスのデータだ。
毎日、ボクの実験に協力してもらう。
……ボクの研究テーマは、評議会がひた隠しにする《人造聖女計画》の解析だからね」
その言葉を出した瞬間、カイの表情が変わった。
(ふむ。……やはり、何か知っていそうな顔だ)
スレンはカップに口をつけ、心の中で冷たく計算した。
この少年を使えば、評議会の老人どもを出し抜けるかもしれない。
(使える駒は使い倒す。それがボクのやり方だ)
だが、目の前の少年は、スレンの計算よりも少しだけ《人間臭い》反応を見せた。
「……わかった。協力する。
ただし、リリアさんには手出しさせない。実験台は俺だけでいい」
「おや、かっこいいこと言うね」
スレンはクスクスと笑った。
自己犠牲か、それとも計算か。
どちらにせよ、退屈な研究生活が一気に賑やかになりそうだ。
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