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【第10話:国境検問突破作戦】

三日後。

カイとリリアは、剣の都の国境付近にある街道沿いの森に潜んでいた。


「……検問、厳重だな」


木陰から覗く国境ゲートには、数十人の兵士と魔導師が配置されている。

すべての馬車、通行人が止められ、手配書と照合されていた。


「強行突破は無理ね。魔導師がいる。私の速さでも、感知結界は抜けられない」


リリアが悔しそうに剣を握る。

彼女の武力なら兵士を蹴散らすことはできるかもしれないが、結界に触れれば増援を呼ばれて終わりだ。


「真正面以外に道はないのか?」


『国境線には広域探知結界が張られている。

唯一の穴は、あのゲートが開く瞬間だけだ』


ノクスの分析は非情だ。


カイは街道を見つめた。

長蛇の列を作っている馬車の中に、一台だけ、列から外れて立ち往生している荷馬車があった。

車輪がぬかるみにハマり、小太りの商人が顔を真っ赤にして御者台で喚いている。


「……あれだ」


カイの目が怪しく光った。


「リリアさん、少し演技に付き合ってくれ」


「演技?」


「ああ。今から俺たちは『ワケアリの同業者』だ」



カイはフードを目深に被り、立ち往生している商人に近づいた。


「おやおや、災難ですなぁ、旦那」


「あぁん? 誰だお前は! 見世物じゃないぞ!」


商人は苛立ちを隠そうともしない。

カイは鼻をひくつかせた。


「いやぁ、いい匂いだと思いましてね。

……その荷台の下に隠してある『未認可の魔力草』。

魔法の都に持ち込めば、通常の三倍の値がつきますからねぇ」


商人の動きがピタリと止まった。

顔色が青から白へ、そして赤へと変わる。


「き、貴様……何を……!?」


カマをかけただけだ。

ノクスの視覚共有で、荷台から微量な魔力光が漏れているのが見えた。

普通の肥料なら魔力は出ない。この時期、剣の都から持ち出される魔力物質といえば、違法栽培の魔力草が相場だ。


「大きな声を出さないでくださいよ。兵士が来ます」


カイはニヤリと笑い、背後に立つリリアを親指で示した。


「実は、俺たちも同業者でしてね。

ウチの用心棒リリアが、旦那の荷車の車輪を直せると言ってるんですが……どうです?

手伝う代わりに、俺たちを国境の向こうまで『荷物』として乗せていってくれませんかね?」


商人は脂汗を流しながら、カイとリリア、そして遠くの検問所を交互に見た。


「……金は無いぞ」


「構いませんよ。俺たちも、ちょっと顔を見られたくない事情がありまして」


商人はしばらく葛藤した後、観念したように息を吐いた。


「……乗れ。ただし、肥料袋の下だぞ!

臭いがついても文句言うなよ!」


「へいへい。感謝しますよ、旦那」



肥料の強烈なアンモニア臭が充満する荷台の中。

カイとリリアは麻袋を被り、息を殺していた。


「……臭い。最悪ですわ。絶対!」


リリアが小声で毒づく。


「我慢してくれ。この臭いが魔力探知をごまかすフィルターになってるんだ」


荷馬車がガタンと揺れ、動き出した。

やがて、兵士の声が聞こえてくる。


「止まれ! 検問だ!」


心臓が早鐘を打つ。

荷台の幌が開けられ、光が差し込む。


「……うっ、なんだこの臭いは!」


「へへぇ、すいません。特製の肥料でしてね。魔法の都の畑にはこれが一番で……」


商人の媚びるような声。

兵士は鼻をつまみ、槍で適当に荷台をつついた。


ザクッ。


槍先が、カイの股間のすぐ下、指1本分ギリギリの場所を突き抜けた。

カイは悲鳴を噛み殺し、全身を硬直させる。


「……よし、行け! さっさと通れ!」


兵士は臭気に耐えられず、早々に検査を切り上げた。

馬車が再び動き出す。

石畳の感触が変わり、国境を越えたことを告げる。


「……抜けたか」


カイは大きく息を吐いた。

冷や汗で服がびしょ濡れだ。


リリアが麻袋から顔を出し、呆れたように、しかし少しだけ感心した目でカイを見た。


「あなた……本当に口だけは達者ね」


「褒め言葉として受け取っておくよ。

……さあ、このまま魔法の都だ。

スレンとかいう変人魔術師に会いに行くぞ」


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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