幽霊免許制
ああ、俺から全てを奪ったあの男! 必ず祟り殺してやる!
信頼していた男に裏切られて自ら命を絶ったはずのその男性は、そんな強い思いと共に再び意識を取り戻した。
死んだいまなら幽霊としてあいつに復讐が出来る、そんな暗い喜びと共に目を開けた男性の目に飛び込んできたのは……。
「あ、お目覚めになられましたー? それじゃこちらのチラシをどうぞー」
「死後案内人」と書かれた腕章をしてスーツを身にまとった小柄な女性だった。チラシを読んでもなにか分からないことがあったら聞いてくださいー、のんびりとした口調で言って女性は病院か市役所の受付のような場所へとさっさと戻っていってしまった。
キョロキョロと見回すと、果てが見えないほどに広くはあったが雰囲気はやはり病院や市役所の待合室のような感じである。人がまばらに椅子に座っているが、その全員が白い三角の頭巾を頭に巻いていた。
なにがなんだか分からないながらも男性は手渡されたチラシに目を落としてみる。チラシとは言うが、それはちょっとした冊子になっていた。目次を見てみると、死後に行える様々なことを説明しているものらしい。
その内の一つに「幽霊となるには」という項目があることに気が付いた男性はその項目を開いてみた。
するとそこには、幽霊というのは免許が必要であり、免許によって「観光用幽霊」や「職業幽霊」などの様々なものに分かれると書かれていたのだが、どうにも要領を得ない。
復讐を目的とした幽霊はどれにあたるのだろうか。
そこで俺は先程の女性に質問をしてみることにした。受付で退屈そうにしていた女性は俺の話を聞くと、少し同情的な表情でこう答えた。
「それだとしたら職業幽霊になりますねー。免許発行までは順番待ちと研修とでだいたい二年くらいかかりますー」
俺はため息を吐く。どうやら復讐はだいぶ後回しになるようだ。