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第4話 団長からの求婚


「デイジー、貴女って子は……!」


「なんてことを言うんだ!お前を心配して皆が駆けつけたというのに!」


 ようやく話しだしたかと思えば、私を叱りつける両親に内心ため息をこぼす。


 誰が駆けつけてほしいなんて頼んだのよ。今まで私の安否なんか気遣わずに放っておいたくせに……。


 戦場では家族から労いの手紙が送られてくる者達もいたが、この2年、私は一度も受け取ったことはない。


 やれやれと呆れたように首を竦める私の様子を、レオは信じられないとでも言うように立ち竦んでいた。


「まぁ、そういうわけですので。皆様お引き取りを。そもそも、私はすでに家を出た身です。だからこそ、アイリスのことを心配してあげてくださいませ?」


 その瞬間、部屋の入り口付近でパチパチと拍手をする音が聞こえてきた。


 私を初め、両親やレオも拍手の音が聞こえた方向に視線を向ける。


「いや〜、実におもしろいものを見せてもらったよ」


「アレン……団長?」


「やぁ、デイジー。久しぶりだね。元気だった?」


 扉の近くの壁に寄りかかるっているのは、第3騎士団団長のアレン・グランヴィルだ。


 なんで、アレンがここにいるの……?


 あいかわらずの端正な顔立ちは、女性を魅了する。現に、私の母もうっとりと、アレンの姿を見つめていた。


 しかも、ただ、壁に寄りかかっているだけなのに、様になっているのがちょっと癪に障る。


「……貴様、何者だ」


 レオの嫌悪に満ちた瞳がアレンに向けられた。


 しかし、そんなレオを気にする様子もなく、


「お初にお目にかかります。第3騎士団団長のアレン・グランヴィルです。以後お見知り置きを。アッシャー伯爵ご夫妻」


 と、無視して両親に挨拶をするものだから、カッとレオの頬が怒りからか朱に染まる。


「こ、これはこれは。アレン殿のお噂はかねがね……。それにしてもこちらには何用で?」


 さすがの父も、戦場の英雄と名高いアレンに対しては些かへりくだった様子だ。


 あからさまに私の時とは態度の違う父に内心ムッとする。


「いえ、私も本日、デイジーの帰還パーティーに招待されましてね。あぁ……ちょうどよかった。今日は、デイジーに言いたいことがあって来たのですが。ご両親もいらっしゃるならタイミングもいい」


 ……私に言いたいこと?


 キョトンとした表情でアレンを見つめる私に向かって、颯爽と歩みを進めてくる。


 そして、私の前に立つとフッと微笑み、片膝をついた。


「ちょ、ちょっと……、いきなりどうしたの?」


 コソッと小声で話しかけるも気にした様子のないアレンは、団服の内ポケットから小さな箱を取り出す。その中にはダイヤの綺麗な指輪が入っていた。


「デイジー、無事に戦場から帰還したら君に言おうと思っていたんだ。私、アレン・グランヴィルと結婚してほしい」


「な……」


 絶句したのは私だけではない。その場にいた両親、レオも呆気にとられた様子でアレンを見つめている。


 あまりに突然の出来事にパチパチと目を瞬かせる私にアレンはクスリと笑みを浮かべた。


 その瞬間、私は全てを理解した。


 そうか……!そういうことね!


 きっと、アレンは私と両親、レオ様とのやり取りをしばらく見ていたに違いない。つまり、私がレオ様と再度婚約をさせられそうになっている現場を目撃したわけだ。


 アレンってば、さすがに私のこと可哀想に思ってくれたのね……。演技でこの場を誤魔化そうとしてくれてるんだわ。


 そうとわかればこの演技に乗るしかない!


 意を決した私は、アレンが差し出した指輪の入った箱を受け取る。


 そして、


「アレン様、喜んでお受けいたしますわ」


 今自身ができる最高の微笑みを浮かべたのだった。

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