エピローグ
五月の終わり、衣替えの日がやってきた。この時期になると、もう春らしさはない。
咲は制服のサマーカーディガンをひっかけ、聖書研究会の部室へ走っていた。
といっても今は聖書研究会は無くなった。家庭科部に吸収合併され、あの部活は「家庭科部・聖書菓子研究室」となった。
家庭科にもクリスチャンが多かった事。聖書研究会の顧問である春日部が色々と動いてくれた結果らしい。
ちなみに料理部はカフェ店長・水川泉美がスーパーバイザーとなり、ますます本格的な菓子作りを始めるという。
そんな泉美から咲は焼き菓子のサンプルをいくつか預かっている。「愛美ちゃんと味見してね」との事だが、詳しい中身は知らない。
「愛美、店長からお菓子預かってきたよ」
「本当? ありがとう」
愛美は笑顔でその中身を開く。中身はレモン風味のフィナンシェやマドレーヌだった。以前、咲が提案していたワンコインメニューの試作だとか。
「わあ、レモンの爽やかな良い匂い」
愛美は目を細め、焼き菓子の匂いを吸い込む。
結果として聖書研究会がなくなってしまったが、案外気にしていないらしい。
「ま、どうしてこうなったという感じだけど」
「良いじゃない。なるようになるよ!」
咲も笑顔で焼き菓子を齧る。
ちょうどその時だった。お客さんがやってきた。新入生らしいが、顔は真っ青。
「助けて欲しいんです。実は……」
どうたらまた謎が持ち込まれたらしい。咲と愛美は顔を見合わせが、すぐに笑顔だ。
「いらっしゃい。さあ、お菓子でも食べながらゆっくりと事情を聞きましょう」
愛美の笑顔に新入生は安堵のため息をついていた。
ご覧いただきありがとうございます。短めのライトミステリですが、咲のバイト先の店長・泉美が主役のコージーミステリをかきまして、一応同一世界観&スピンオフです。