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GREAT HISTORY〜大史伝〜  作者: アイラル
第三部 ミケ将軍タズドット侵略編

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第八十二話 勝利の代償

――勝利とは、往々にして甘美な毒に過ぎないのかもしれません。


リガナーヴ砦の陥落。敵軍の降伏。


字面だけをなぞれば、それは称賛されるべき軍事的功績でしょう。


けれど、その『戦果』の裏側で支払われたチップが、かけがえのない友の命であったとしたら?


ジギフリットの瞳に宿っていた、あの澄んだ熱狂は今、深い喪失の闇に塗り潰されました。


血を拭うその指先は、友を失った悲しみで震えているのか、あるいは復讐への渇望で軋んでいるのか。


残酷なのは、世界がその悲劇を待ってくれないことです。


友の亡骸が冷え切るよりも早く、冷徹な『管理者』たるレイ将軍は、次なる盤面を指し示します。


失われた命を悲しむ暇さえ与えず、その死を『効率的な燃料』として次の戦地へ注ぎ込む。

これこそが、この物語の、そして戦争という名の悪趣味な遊戯の真実。


標的は、ブヌに潜む臆病な鼠。


勇者が命を捨てた場所で、臆病者が命を惜しむという、皮肉な対比が幕を開けます。


さあ、耳を澄ませなさい。


一人の男の死を糧にして、巨大な戦争の歯車が、より速く、より残酷に回り始める音を。

 リガナーヴ砦の陥落は、タズドット軍の降伏という形で、あっけない幕切れを迎えた。


 しかし、この勝利の影には、マルク・バーダー隊長の血塗られた亡骸という、重すぎる代償があった。


 ジギフリット副将軍は、降伏したヴァルナル・オークランス副将軍と500名のタズドット兵の処理をレナード大隊長に任せ、マルクが倒れた門の前に佇んでいた。


 彼の澄んだ瞳には、周囲の勝利の喧騒とは対照的な、深い悲しみが宿っていた。


 彼は、マルクの亡骸から剣を引き抜き、静かに血を拭った。


「よし、これで勝利したな。」


 ジギフリットの口から出た「勝利」という言葉は、かつての熱狂ではなく、重い義務感を伴っていた。


 彼は、マルクの命を無駄にしないためにも、この勝利を決定的なものとしなければならないと強く感じていた。


「マルク隊長の死は、この胸に焼き付いている…… しかし、この悲しみに囚われて立ち止まるわけにはいかない。俺たちは、マルクが命懸けで開いたこの道を進まなければならないのだ…できるわけないけどな、ははっ、けど、進むよ、そこに道がある限り、だから、見ていてくれ、マルク」


 ジギフリット副将軍は、心の中で深く誓った。彼の悲しみは、個人的な感情として終わるのではなく、ミケ将軍の統一という大義を推し進めるための、新たな推進力へと変わった。


 彼は、マルクの意思を継ぎ、最後まで冷酷に戦い抜くことを、自らに課した。


 その時、後方で戦況を見守っていたレイ将軍が、静かにジギフリットの傍らに現れた。


 彼の七三分けの黒髪は整然としており、その顔には、感情の波は一切見られなかった。リガナーヴ砦の陥落という大戦果にも、彼の態度は淡々としていた。


「ジギフリット副将軍。作戦の完遂、ご苦労。」


 レイ将軍は、マルクの亡骸に目を留めることもなく、馬上から静かに現状を総括した。彼の視線は、すでに次の戦場へと向けられていた。


「今回は、マルク隊長の壮絶な献身と、敵の籠城という愚策により、短期間で勝ちを得ることができました。」


 レイ将軍は、勝利の要因を冷徹に分解し、偶然の要素と敵の弱点を明確に指摘した。


「しかし、敵方の主力は、未だ健在です。ブヌにいるアンセルム大隊長の部隊こそ、タズドットがこの地域に残した最も大きな軍事力です。しかし、我々の情報が正しければ、アンセルム大隊長は、ギーラピとセシェスの惨状を見て、既に臆病風に吹かれているようです。」


 レイ将軍の分析は、勝利の勢いと敵の心理的な弱点を正確に捉えていた。


 タズドットのアンセルム・バリエンダール大隊長は、元々臆病で保身的な性格であり、セシェス陥落とリガナーヴ砦のあっけない敗北の報を聞けば、さらに戦意を喪失している可能性が高い。


「この勝利によって、敵の士気は底まで落ち込みました。我々は、このまま気を引き締めて、ブヌの敵を徹底的に叩けば、この地域のタズドット軍を完全に駆逐できるはずです。」


 ジギフリット副将軍は、レイ将軍の冷静な分析を聞きながら、マルクの死から生まれた新たな決意を強固にした。


 彼の悲しみは、もはや個人的な嘆きではなく、復讐と大義のためのエネルギーへと昇華されていた。


「ええ、分かっています!」


 ジギフリットの返答は、先ほどまでの激情とは異なり、静かで、しかし揺るぎない力強さに満ちていた。


 彼の言葉は、レイ将軍の知略を、武力によって確実に実現するという固い覚悟を示していた。


「臆病風に吹かれているのなら、なおさら叩き潰す価値がある。マルク隊長が命懸けで開いたこの道を、俺たちの勝利で舗装してやる。ブヌのアンセルム大隊長を討ち、タズドットがこの地に築いた全ての虚飾を、俺たちの手で完全に終わらせてみせる!リムリアのために、そして、お前との誓いだ、必ずこの国を変えてやる、俺は諦めない、ここに誓う」


 ジギフリットの言葉は、レイ将軍の冷徹な知略と、ミケ軍の情熱が完璧に結びついた瞬間を象徴していた。


 リガナーヴ砦の血と炎の向こうに、ミケ軍の次の目標――ブヌのタズドット軍――が、明確に照準された。


 レイ将軍は、ジギフリットの悲しみを力に変える覚悟を確認すると、静かに頷いた。


 彼の戦略は、感情をも利用する。マルクの死は、悲劇であると同時に、ミケ軍を次の勝利へと突き動かす非情な燃料となったのだ。


 リガナーヴ砦の陥落は、タズドットの反撃の試みを打ち砕き、ブヌへと続く新たな戦いの舞台を設定したのである。


 誰が為に鐘は鳴るのか、亡き者となった、マルクの為だろう、みんな、この世界に生きているんだ、俺たちは戦う、みんなの為に、リムリアの為に。

はい、というわけで、リガナーヴ砦攻防戦・完結でございます。


……いやあ、本当にひどい話ですねえ(自画自賛)。


友との「約束」を守るために命を燃やした男と、その友の「亡骸」を目の当たりにして、悲しみさえも戦いの燃料に変換しなければならない男。


ジギフリットの心境を思うと、作者としても筆が(いやキーボードを叩く指が)踊るというものです。


マルク・バーダーという男は、最後まで「ずら」なんて気の抜けた言葉を使いながら、やってのけたことはミケ軍の誰よりも壮絶でした。


彼が最期に見た景色が、自分の開いた門から差し込む勝利の光だったのなら、それは救いだったのでしょうか?


それとも、二度と会えない友を思い、冷たい石畳の上で孤独に震えていたのでしょうか?


……まあ、その答えは、彼を看取ったジギフリットだけが胸に秘めておけばいいことですね。


そして、相変わらず冷血動物なのがレイ将軍です。


功労者の死を前にして、まばたき一つ変えずに「次」の盤面の話をする。


彼にとって、命とは積み上げるべき成果であり、削るべきコストでしかない。


そんな氷の男と、復讐の炎に身を焼かれるジギフリット。


この二人が並び立って進軍する光景ほど、不吉で、そして頼もしいものはありません。


標的はブヌ。待ち受けるのは、保身に走る臆病者・アンセルム。


命を懸けた者たちの後に、命を惜しむ者が立ちはだかるという、なんとも皮肉な巡り合わせ。


友を失った悲しみは、一体どれほどのタズドット兵の血であがなえば満たされるのか。


ジギフリットが握る剣は、次は誰の絶望を切り裂くことになるのか。


さあ、復讐の旅路はまだ始まったばかり。


ページをめくる準備はいいですか?


地獄の続きは、すぐそこであなたの到着を待っていますよ。

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