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GREAT HISTORY〜大史伝〜  作者: アイラル
第三部 ミケ将軍タズドット侵略編

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第七十五話 灰色の血風録

 優しい世界なんて、ほんの一握りの奇跡でできているんだと思う。

 でも、その奇跡はいつだって簡単に踏みにじられて、壊されて、悲鳴を上げる暇すら与えられずに消えていく。


 セシェスの街が、まさにそうだった。


 “たまたま巻き込まれただけ”の人々が、

 “抵抗する力もない”ままに、

 “誰かの都合”で苦しめられていく。


 ――それは、優しい心のままじゃ受け止めきれない現実だ。


 けれど、それでも目を逸らしたら。

 その瞬間、誰かの悲しみは本当に“なかったこと”にされてしまう。


 だから、これは痛みと苦しさが降り積もる物語だけれど、同時に――


「絶望の中でも、前を向こうとする人たち」

の物語でもある。


 失われたものは帰ってこない。

 壊された心は、そう簡単に元には戻らない。

 それでも、


――それでも、立ち上がろうとしてくれる誰かがいる限り。


 この物語は、たったひとつの希望を探し続ける。


 そんな物語が、これから始まる。

 レイ将軍の三布告(略奪、徴兵、虐待の許可)が発されてから数日、タズドットの植民地セシェスは、もはや人間が暮らす場所ではなかった。


 ミケ軍の支配下で、住民たちは懲罰とも言える苦行を次々に重ねさせられていた。


 徴兵を免れた者たち、そして抵抗の意志を持たない者たちは、軍需物資の運搬、破壊された防衛施設の修復、そしてミケ軍の野営地の設営といった、過酷な強制労働へと駆り出されていた。


 食料はろくに与えられず、病に倒れる者も容赦なく鞭打たれた。


 中央軍の兵士たちは、ジギフリット副将軍の暗黙の許可を得て、公然と住民を人間以下の存在として扱った。


 その労働現場では、ミケ軍の監督兵が、楽しげに罵声を浴びせ続けていた。


「お前らー馬車馬の如く働けー!この街の安寧に甘え続けた罪を償うのだ!」


 監督兵は、馬が使うような重い鞍やくびきを住民に装着させ、過剰な重量の資材を運搬させていた。


 その光景は、人間の尊厳が完全に踏みにじられた、地獄絵図だった。


 それに対し、肉体的、精神的に追い詰められた住民たちは、ほとんど自我を失い、意味のない返答を繰り返すしかなかった。


「へーい!ひひーん!」


 まるで、本当に家畜に成り果てたかのような、空虚な声が労働現場に響き渡る。


「それで良いのだー!ミケ将軍の支配下では、無能な人間は、有用な家畜として生きる道を与えられるのだ!」


 ミケ軍の支配は、恐怖と、生存のための屈辱を住民たちに強要することで、短期間での支配の確立という、レイ将軍の冷徹な合理性を証明していた。


 セシェスの住民たちは、明日への希望どころか、人間としての尊厳すらも失いかけていた。


 一方、タズドット本国では、セシェスの電撃的な陥落、アルフォンス地方官の屈辱的な敗北、そしてミケ軍による極端な支配体制の布告という、三重の衝撃に晒されていた。


 セシェスの陥落は、単なる領土の喪失ではない。


 それは、タズドットの軍事的な威信と、黄金同盟内での外交的な地位が、「ならず者の反乱軍」によって公然と踏みにじられたことを意味していた。


 本国政府と軍部は、前代未聞の危機に直面し、激しい動揺と焦燥に駆られていた。


 この危機的状況を収拾すべく、タズドット軍の最高位に立つヨアキム・イェンソン大将軍が、ついに重い腰を上げた。


 ヨアキム大将軍は、国内屈指の名声と実力を兼ね備えた老練な指揮官である。


 彼は、ミケ軍の急速な勢力拡大と、セシェスにおける残虐な統治の実態を知り、これ以上の放置は、タズドットの崩壊に直結すると判断した。


「ミケ将軍の狙いは、セシェスの占領だけではない。彼らは、あの地で恐怖による支配を確立することで、周辺の植民地、そして最終的にはタズドット本国そのものを、内部から動揺させようとしている!」


 ヨアキムの執務室には、怒りと焦りが充満していた。


 セシェスの住民への略奪、徴兵、虐待という三つの布告は、タズドットが「文明国」として築いてきた全ての建前を破壊するものであり、一刻の猶予も許されない。


 ヨアキム大将軍は、すぐさま精鋭部隊の編成を命じた。


 彼の決定は、セシェスを奪還することだけでなく、ミケ軍の増長を断ち、彼らの冷酷な支配を終わらせることを目的としていた。


「ミケ軍の残虐な支配を、これ以上続けさせてはならない。セシェスの住民は、未だタズドットの臣民である!彼らを救い出し、あの地の秩序を回復せよ!全軍に告ぐ、直ちにセシェスへの救援部隊を編成し、ミケ軍を打ち破れ!」


 ヨアキムの号令は、タズドット軍の将兵たちに、失われた威信を取り戻すための最後の機会として響き渡った。


 セシェスでは、ミケ軍の冷酷な支配の下、屈辱的な苦行が続けられている。


 一方、遥かタズドット本国では、ヨアキム・イェンソン大将軍によって、その支配を打ち破るための反撃の狼煙が上げられた。


 運命の歯車は、ブヌのトマス大隊長やアンセルム大隊長のいる国境地帯をも巻き込みながら、大規模な戦争へと加速し始めていた。

 ここまで読んでくれたあなたに、まずはひとこと言わなくちゃいけない。


 ――今回の物語、胸が痛すぎませんでしたか?


 セシェスで踏みにじられた日常も、

 奪われた尊厳も、

 怒りと悲しみで揺れるレイ将軍たちの心も。


 読めば読むほど、

「こんなの間違ってるよ」

と叫びたくなる場面ばかりだったと思う。


 でも、痛みを描くのは、ただ残酷になりたいからじゃないんだ。


 痛みがあるからこそ、“前に進もうとする強さ”が浮き彫りになる。

 レイ将軍が嫌でも前を向かされたように。


 今回、絶望のただ中で足を止めなかった者たちがいた。

 心が折れそうになりながらも、誰かの死を背負って歩こうとした人たちがいた。


 その一歩は、どれだけ小さくても――確かに世界を動かす力になる。


 そして、物語はここで終わりじゃない。


 ミケ軍の暴走、

 セシェスの地獄、

 タズドット本国の怒りと焦り、

 そしてヨアキム大将軍の反撃。


 全部がひとつの大きな渦になって、

 これからもっと激しく回り始める。


 痛みも、絶望も、まだ続くかもしれない。

 だけど――その先に“救い”が必ずないとは、誰も言っていない。


 次の話では、きっとまた新しい運命が動き出します。


 どうか、あなたの心も折れませんように。

 そして、レイ将軍たちにも…ほんの少しでいいから、優しい風が吹きますように。

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