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GREAT HISTORY〜大史伝〜  作者: アイラル
第三部 ミケ将軍タズドット侵略編

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第七十三話 恐怖の鉄律

セシェスの地は、血と煙に覆われていた。

砕け散った瓦礫の隙間に、まだ生温かい戦の痕跡が残る。

街の片隅で、泣き叫ぶ者たちの声は、夜の闇に溶け込み、次第に遠ざかっていく。


その地を踏みしめるのは、冷徹な意思を胸に抱いた一人の将軍――レイ・リッテルスト。

彼の目には、仲間の死に濡れた悲しみと、戦略の完成に伴う達成感が混ざり合っていた。

悲しむべき者たちを前に、彼はただ冷たく、しかし確実に未来を刻もうとしていた。


戦争とは、希望と絶望が交錯する舞台である。

勇敢な者も、理不尽な死に飲み込まれる。

しかし、たとえ仲間が倒れようとも、使命は止まらない――

生き残った者が、絶望の中で希望を紡ぎ出すために。


今、この夜明けの布告台の上で、新たな秩序が宣言されようとしている。

それは、タズドットの腐敗を断ち切り、民衆の命と財産を力と恐怖によって支配する、冷酷な世界の幕開けである。


――この物語は、血に濡れた希望の記録であり、戦いに散った者たちの魂への鎮魂歌である。

絶望の中で生きる者たちが、どのように未来を見つめ、どのように戦い抜くのかを、あなたは目撃することになる。

 バート・ミュルバリ新地方官によるタズドット支配破棄の布告が終わり、セシェスの住民と官僚たちが、「新しい支配者の下での生活」という不確かな希望を抱き始めた、まさにその瞬間だった。


 レイ将軍は、静かに布告台へと歩み出た。


 彼の周りには、ジギフリット副将軍、レナード大隊長といったミケ軍の主要指揮官が、冷酷な期待を込めた表情で控えている。


 レイ将軍は、先ほどのバート地方官の言葉とは全く異なる、感情を一切排した、冷たい声で、セシェス全域に響き渡る新たな「秩序の鉄則」を宣言した。


 彼は、その声明が持つ破壊的な意味合いを理解しているかのように、一語一語を区切って、静かに読み上げた。


「タズドットの腐敗した支配は終わった。ここからは、ミケ将軍の力と合理性に基づく、新しい支配が始まる。これをもって、セシェスの民衆に対し、以下の三つの布告を発する。」


 周囲の住民や、捕虜となったタズドットの官僚たちの間に、不穏なざわめきが広がった。彼らは、新しい支配者が示すはずの「新しいルール」を、不安と希望の中で待っていた。しかし、レイ将軍が読み上げたのは、彼らの想像を遥かに超える、地獄の条項だった。


 レイ将軍は、文書から目を上げることなく、住民たちの運命を決定づける、非情な三つの条項を読み上げた。


一つ、民衆からの略奪を許可する


「セシェス全域にわたり、ミケ将軍の軍隊による民衆からの略奪を、全面的に許可する。これは、軍の士気維持と、作戦遂行のための合理的な措置である。抵抗する者は、即座に反乱分子と見なし、その場で処分される。」


 この布告は、セシェスの住民たちの間に物理的な恐怖を巻き起こした。


 彼らが所有する食料、財産、そして家屋の全てが、ミケ軍の欲望の標的となることが公式に宣言されたのだ。


 ジギフリット副将軍の瞳の炎は、この「略奪の合法化」により、一層激しく燃え上がった。彼の部下たちは、既に口元に獰猛な笑みを浮かべ始めていた。


一つ、民衆からの徴兵を許可する


「セシェス全域にわたり、ミケ将軍の軍隊による民衆からの徴兵を、強制的に許可する。全ての健康な成人男性は、ミケ軍の兵士として組み込まれ、タズドットとの戦いの最前線へと投入される。抵抗は、先の布告と同様に反乱罪と見なす。」


 この布告は、住民たちの間に絶望的な嘆きを広げた。彼らの息子や夫は、ミケ軍の「使い捨ての盾」として、自国タズドット軍との、無益な消耗戦に送り込まれることが決まった。この冷酷な徴兵は、ミケ軍が「人力」を最も安価な「資源」として扱うという、非情な合理性を示していた。


一つ、民衆への虐待を許可する


「軍の命令に背く者、あるいは軍の士気を害する行動をとった者に対し、ミケ将軍の軍隊による民衆への虐待を、全面的に許可する。これにより、軍の規律と、住民への絶対的な恐怖による支配を確立する。」


 この三つ目の布告は、全ての人間性を踏みにじるものだった。


 虐待の許可は、ミケ軍の兵士たちに対し、「住民は人ではない、支配のための道具である」という冷酷なメッセージを送りつけた。


 これは、セシェス全域に無秩序で残虐な支配が始まることを、公式に宣言した瞬間だった。


 この三つの布告が読み上げられた瞬間、セシェス地方官邸の中庭は、静寂な絶望に包まれた。


 タズドットの官僚たちは、レイ将軍の冷酷な哲学の前に、言葉を失って立ち尽くした。


 そして、この布告を聞いた住民たちの間には、嗚咽、そして逃走への衝動が広がり始めた。


 レイ将軍は、この恐怖と絶望の波紋こそが、自身の狙い通りであると確信した。


 彼は、この布告がタズドットの植民地支配が持っていた「見せかけの慈悲」や「緩やかな支配」とは全く異なる、「力と恐怖による絶対支配」の確立を意味することを理解していた。


 この三つの布告は、ミケ将軍の軍団が、「野望のためには、いかなる人権も、いかなる倫理も踏みにじる」という、狂気の哲学を世界に知らしめる最初の公式声明となった。


 セシェスは、タズドットの支配から解放されたのではない。彼らは、より冷酷で、より非情な、新しい支配者の手に落ちたのである。

セシェスの地には、血と恐怖の匂いが濃く漂ったまま夜明けが訪れた。

瓦礫の間に散らばる戦の痕跡、倒れた者たちの温もりを失った体は、無言のまま冷たい大地に溶けていく。

生き残った者たちは、深い絶望に押しつぶされそうになりながらも、それでも歩みを止めることはできなかった。


レイ将軍の目に映るのは、仲間の死に濡れた悲しみと、冷徹な戦略の達成感が交錯する世界だった。

……愛すべき者たちの名が、胸の奥で痛みとなって響く。

その痛みこそが、戦場で生き残った者の背中を押す、決して消えぬ炎であった。


布告台の上で示された三つの条項――略奪、徴兵、虐待――は、民衆に絶望の波を押し付けた。

だが、絶望の淵にあっても、人はなお希望を見出そうとする。

血と恐怖に染まった世界で、誰もが抗えぬ運命の中で、それでもなお生き、そして戦おうとするのだ。


この物語は、散った仲間たちへの鎮魂であり、残された者たちの戦いの記録である。

絶望の中で希望を紡ぐ者たちの姿を、あなたは目撃することになる。

たとえ世界が冷酷であろうとも、命の炎は、必ずどこかで光を放ち続ける――それを信じるために。

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