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GREAT HISTORY〜大史伝〜  作者: アイラル
第三部 ミケ将軍タズドット侵略編

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第六十七話 暗黒の進軍路

 この章では、ミケ将軍率いる軍勢がついに“勝利への決定的一歩”を踏み出す瞬間が描かれます。

 タズドットとの外交戦で得た静かな優位、そしてギーラピでの作戦的成功。この二つの追い風を受け、レイ将軍はもはや迷いなく全軍進撃を宣言します。


 副将たちはそれぞれの野心と誇りを胸に、隊を率いて立ち上がる。

 ジギフリットは栄光を求め、ビテンは黙々と任務を遂行し、リーヴェスは己の武力に絶対の自信を抱く。

 彼らの熱が、ひとつの巨大な奔流となって夜の戦場へと溢れ出していくのです。


 戦場は、ただの戦場ではありません。

 これは、ミケ将軍の野望が新たな段階へと進む“転換点”。

 そして、物語全体の行く末を大きく揺さぶる“侵攻の幕開け”なのです。


 静寂を破るレイ将軍の号令と共に、ミケ軍はセシェスへ向けて動き始めます。

 すべては、この時から始まった――そう記されるべき歴史の瞬間が、ここにあります。

 作戦テントの中は、松明の光と、レイ将軍の冷徹な知性によって生み出された勝利の方程式に対する、指揮官たちの熱狂的な賛同の熱気で飽和していた。


 レイ将軍は、タズドットの外交的な敗北と、ギーラピでの戦術的優位という、二つの決定的なアドバンテージを前に、もはや成功を微塵も疑っていなかった。


 彼は部下たちを見つめ、軍団の魂に火をつける最後の言葉を放った。


「皆さん、行きますよ。タズドットの植民地セシェスへ。我々の行動は、最早無法な反乱ではない。正当な自衛と、裏切り者タズドットへの制裁であると、国際社会が沈黙で認めた。我々は、この戦いでミケ将軍の野望を次なる段階へと押し上げる。勝利とは、決して偶然ではない。準備はいいですか!」


 その問いかけは、テントの幌を突き破り、野営地全体に静かに、しかし明確な出撃の意志として伝播した。


 レイの言葉に、副将たちは一斉に立ち上がった。


 その応酬は、単なる返答ではなく、ミケ軍の多様な強さを示す宣誓の連鎖だった。


 まず、中央軍のジギフリット副将軍が応じた。


 彼の瞳は、勝利の略奪品と、自己の昇進という具体的な目標を捉えて、激しく燃えていた。


 レナードとの「生存の誓い」が、彼に絶対的な自信を与えていた。


「大丈夫だ、いつでも行ける!レイ将軍の頭脳、レナードの魔弾、そして我が中央軍の猛攻が組み合わされば、セシェス防衛線の要など、脆い骨にすぎません!この中央軍が、真っ先に敵の陣を割き、勝利への道を切り拓いてみせましょう!我々は、勝利と栄光の果実を、最初に味わう部隊となることをお約束します!」


 次に、武骨なビテン副将軍が応じる。


 彼の言葉は、常に最短である。


 彼は、無駄な感情や議論を嫌い、命令の徹底遂行のみを己の存在意義としていた。


「任せろ。命令は下された。あとは、敵兵を血で塗り固めるのみ。右翼からの強烈な圧力が、セシェス防衛線の均衡を完全に破壊する。私に、考える時間など与える必要はない。私は、ただ行動する」


 そして、最も武力に絶対的な信頼を置くリーヴェス副将軍が、尊大な口調で応じた。


 彼の言葉には、他者を凌駕する自身の武力への、傲慢なまでの自負が込められていた。


「我輩の部隊は、既に準備万端だ。いつでも出撃できますよ、レイ将軍。我輩は、貴殿の計画をただ実行するだけでなく、それをさらに完璧なものとするために存在する。この左翼が、右翼や中央軍よりも、圧倒的な速さと破壊的な暴力をもって敵を粉砕し、全軍の勝利を決定づけてみせよう。タズドット軍の愚かさに、我輩の部隊が引導を渡す時が来た!」


 副将たちから確固たる応諾を得たレイ将軍は、満足感と共に静かに作戦テントを後にした。


 彼の背後から、レナード、ジギフリット、ビテン、リーヴェスといった各隊の指揮官たちが次々と続き、全軍の陣頭指揮を執るべくそれぞれの持ち場へと向かった。


「全軍、直ちに出撃せよ!目標、タズドット植民地セシェス!進め!」


 レイ将軍の号令は、夜の闇を突き破る雷鳴のようだった。


 この瞬間、ミケ軍の野営地全体が、一斉に巨大な生命体のように動き始めた。


 静寂な夜の地面が、何千という兵士の足音、馬の嘶き、そして重い兵器の移動によって地の底から脈打つような鼓動を打ち始めた。


 兵士たちの呼吸は、白く凝固した夜の空気の中に、熱気と高揚感と共に溶けていく。


 彼らの眼差しには、アンセルム大隊長のような不安や逃避の感情は一切ない。


 あるのは、勝利と、それを獲得するための暴力への渇望だけだ。


 レイ将軍の計画は、もはや紙上の線ではない。


 それは、暗闇の中を縫うように進む巨大な蛇の隊列となり、タズドットの植民地セシェスへと、不可逆的な侵略を開始したのである。

 イラルが落ち、ひとつの砦が静かに息絶えた瞬間、

 世界の大地は、確かに何かを失い、そして何かを孕んだ。


 ミケ軍が踏み出した道は、栄光などという軽い言葉では決して覆えない。

 彼らが進む先は、血と怨嗟を啜りながら巨大化していく“戦争”という魔の胎内。

 その奥底には、まだ名も持たぬ怪物たちの影が蠢いている。


 レイ将軍の策は鋭い。

 だが、鋭い刃ほど折れれば深く刺さる。

 彼が放った侵攻の号令は、

 救いの光ではなく、闇を呼び寄せる呪文のようでもあった。


 ジギフリットが求める栄光、

 ビテンが抱く無表情の狂気、

 リーヴェスが踏みしめる傲慢な武威。

 それらはすべて、闇に揺らめく燐光のように美しく、そして脆い。


 セシェスの地は、ただの植民地ではない。

 そこには、タズドットが隠し続けてきた“何か”が眠っている。

 それは資源か、策略か、あるいは、

 この戦争そのものを飲み込む深淵か。


 夜を裂いて進むミケ軍の影が、長く長く伸びていく。

 その影の末端に、どれだけの死と裏切りと悲鳴が連なるのか――

 今はまだ誰にも分からない。


 ただひとつだけ確かなのは、

 ミケ将軍の野望を支えるこの軍勢が、

 もはや“人の軍隊”であることをやめつつあるということ。


 次章、タズドット側に届く侵攻の報せは、

 世界の均衡を裂く最初の悲鳴となる。


 そして戦場は、

 これまでより遥かに深い闇へと堕ちていくだろう。


 ――次章も、どうか覚悟を持って覗き込んでほしい。

 深淵は、覗く者にも牙を向ける。

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