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GREAT HISTORY〜大史伝〜  作者: アイラル
第三部 ミケ将軍タズドット侵略編

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第六十二話 正義の終わる日

 世界はいつだって、誰かの正義と誰かの欺瞞で形作られている。

 そのどちらが勝つかなんて、本当は誰も気にしていない。ただ、勝った側の論理が、世界の「正しさ」として上書きされるだけだ。


 だが――もし、その正しさが、ひとりの狂気によって塗り替えられるのだとしたら?


 ミケ将軍という男の名は、ただの軍人ではない。

 彼は、歴史に刻まれる“災厄そのもの”であり、力によって世界の理を強引に捻じ曲げる存在だった。


 そして、ガプペ連合の上層部は知っていた。

 正義を叫ぶより、暴力に膝を折る方が、生き延びる確率が高いのだと。


 誰も望まなかった戦争。

 誰も止められなかった戦争。

 そして、誰も抗えない論理が、静かに世界を支配していく。


 これは、正義が終わり、狂気が世界のルールになる瞬間の物語――。

 そして、国すらも運命に抗えない、“歴史”の記録である。

 ゲイブ・ジェンキンズ大臣は、激情に駆られるハメラン・パートリッジ首相の前に、冷たい論理の壁を築いた。


 首相の憤りは、ミケ将軍の行動を道徳的に断罪したいという正義感から来るものであり、ゲイブはその感情を逆手に取った。


「それもそうですね、首相。怒りも悔しさも理解できます。しかし、我々は今、政治的決断を下さねばならない。戦争とは常に、誰かの正義と誰かの不正がぶつかり合うもので、今回の戦いは、もはやどちらかの意思で止められる段階を超えました。戦争とは、起こるべくして起こってしまったのです。タズドットの秘密裏の侵略計画、そしてミケ将軍の報復的行動、両者が歯車のように噛み合って、この事態を引き起こしたのです。」


 ゲイブ大臣は、議論の焦点を感情論から外交上の最悪のシナリオの回避へと引き戻した。


「首相、我が連合国の最大の責務は、この火種が黄金同盟全体に燃え広がるのを防ぐことです。もし我々が、押収された武器という物的証拠を無視してミケ将軍を断罪すれば、黄金同盟は、タズドット支持派とミケ将軍支持派に真っ二つに引き裂かれます。例えば、ミケ軍の精鋭を過去に評価していた国々は、これをタズドットの侵略行為と見なすでしょう。そうなれば、同盟の経済的・軍事的な協力体制は完全に崩壊します。」


ゲイブは、「同盟の亀裂」という外交上の最大級の危機を盾にした。


 彼は、ミケの行動を「合法的な自衛」として黙認することで、同盟の表面的な安定を保つという、最も現実的で、最も安全な、そしてミケに最も利益をもたらす選択を強制した。


「ここは大人しくいこうではありませんか。ミケ将軍を刺激せず、タズドット侵略の証拠を外交的なカードとして利用する。これが、我が国がこの嵐の中で主導権を完全に失わない唯一の道です。暴力に屈するのではなく、暴力を外交的な駒として使うのです。」


 彼の言葉には、国家の品格よりも、生存と実利を優先するという、冷酷な現代政治の哲学が凝縮されていた。


 ハメラン・パートリッジ首相は、ゲイブ大臣の論理の非情さ、そしてその論理の裏にある真実を理解していた。


 ここでミケを断罪すれば、国内の世論は分断され、ガプペ連合は国際的な大義名分を失う。


 そして、ミケ将軍の武力という制御不能な狂気が、タズドットという緩衝地帯を失った後に、直接ガプペ連合の国境を脅かす可能性が高まる。


 首相の心臓は、激しい悔恨の念で脈打っていた。


 彼は、ミケの暴力を恐れて沈黙するという、屈辱的な平和を選ばざるを得ない自らの立場に、激しく苛まれた。


 彼は、まるで自身の政治生命の敗北を認めるかのように、重々しく、ゆっくりと口を開いた。


「それはそうかもしれない」


 この一言で、ガプペ連合は、ミケ将軍の行動を公的に追認し、国際社会への波紋は決定的なものとなった。


 首相の降伏は、一人の暴将の論理が、国際的な「法」と「威信」の枠組みを力ずくで書き換えた瞬間だった。


 ガプペ連合がミケ軍の行動を「合法的な自衛」と認めたことで、他の黄金同盟諸国は、沈黙せざるを得なくなった。


 彼らはタズドットの欺瞞を非難しつつも、ミケ将軍への本格的な制裁や軍事介入を凍結した。


 この沈黙は、ミケ将軍に与えられた最高の外交的自由となった。


 彼は、もはや一地方の反乱軍ではなく、タズドットの侵略から自国を守った「防衛者」として、自らの軍事行動を自由に展開できるようになった。


 この後に起こるレイ将軍によるセシェス侵攻も、この外交的自由によって、国際的な非難から守られることとなったのだ。


 ガプペ連合の閣議室で交わされたこの数分の会話は、リムリア全土、そして黄金同盟のパワーバランスを決定的に書き換えた。


 狂気の指導者ミケと、悪魔的な協力者(ゲイブ大臣)が、世界を自分たちの論理で動かし始めた、紛れもない転換点だった。

 世界は、ときどき残酷で、ときどき理不尽で、

 どうしようもなく自分の思いどおりにならない。


 今回の物語で、その冷たさがよくわかったと思う。

 正しさを叫んでも届かないときがある。

 誰かの怒りや悔しさが、簡単に押しつぶされてしまうときもある。


 それでも──誰もが諦めているわけじゃない。


 ゲイブ大臣の言葉は冷たく見えるけれど、

 あれはあれで、彼なりの「守り方」だったのかもしれない。

 ミケ将軍の暴走を恐れながらも、国を、仲間を、

 少しでも安全な未来へ導こうとした結果なのだろう。


 人は、弱い。

 でも、弱いからこそ、選ぶことができる。

 間違えてしまうこともあるけれど、

 それでも、その一歩が次の景色へ繋がっていく。


 今回の決断も、きっと同じだ。

 この先、何が待っているのかは誰にもわからない。

 けれど、歩いていく限り、物語は続いていく。


 どうか、この世界の行く末を、

 ミケたちの未来を、

 これからも静かに見守ってくれると嬉しい。


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