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GREAT HISTORY〜大史伝〜  作者: アイラル
第三部 ミケ将軍タズドット侵略編

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第六十話 虚偽の平和、黒き協奏

 ガプペ連合本国の閣議室は、重厚な木材と大理石に囲まれながらも、冷戦状態にある二人の巨頭の発する熱気で満ちていた。


 テーブルの上には、ギーラピで回収されたタズドットの侵略兵器の残骸と、ガプペ連合の輸出許可書の報告書が散乱している。


 ミケ将軍の最大の協力者であるゲイブ・ジェンキンズ大臣は、完璧に仕立てられたスーツに身を包み、一片の感情も見せずに冷徹な結論を述べた。


「今回の戦争は問題ありませんでした」


彼の言葉は、タズドットの陰謀という、ミケ将軍が天から与えられた「大義名分」を最大限に活用した、周到な政治的宣言だった。


 ゲイブ大臣の論理は、極めて単純かつ強固だ。


「ダリク・ダウニイング外務官の証言と、押収された兵器を見れば明らか。タズドットは平和条約を破り、我が連合国の馬車を欺瞞的に利用した。彼らの行為は先制攻撃であり、ミケ軍の行動は法的な開戦後の自衛である。我が国の外務官の命が救われ、ミケ軍の行動の合法性が証明された以上、国際法廷で争っても、我々がミケ将軍を非難することは不可能ですよ、首相。」


 ゲイブ大臣の目は、すでにこの出来事がもたらす政治的な利益――リムリアにおけるミケ将軍の影響力拡大と、それに伴うガプペ連合の裏での支配強化――を見据えていた。


 彼にとって、「問題がない」とは、「我々の政治的目的に不利な要素がない」という意味だった。


 しかし、ガプペ連合を統治するハメラン・パートリッジ首相は、ゲイブの冷徹な論理に容易に屈しなかった。


 彼は、ゲイブ大臣がミケ将軍という制御不能の狂気に手を貸していること自体が、最大の「問題」であると認識していた。


 首相の表情は、怒り、そして外交的崩壊への危機感で赤く染まっていた。


「問題ないも何も、ガプペ連合が巻き込まれている以上はそんなことはあるまい!間違いなく問題があったといえよう!」


 首相の懸念は、ミケ将軍の合法性ではない。


 第一に、「中立」という国是の崩壊だ。ガプペ連合の馬車が秘密裏に武器輸送に使われたという事実は、タズドットとミケ軍のどちらが勝っても、国際社会からガプペ連合が「戦争に介入した中立国」として非難される外交的リスクを抱え込んだことを意味する。


 第二に、制御不能な狂気の代償だ。首相は、ミケ将軍の破壊的な力がリムリアの均衡を崩すことを恐れていた。


 ミケが勝利を続ければ、その狂気はいつか必ずガプペ連合の国境にまで及ぶ。


 ゲイブ大臣はミケを操っているつもりかもしれないが、首相の目には、ゲイブ大臣こそが自国の破滅的な未来を招き入れているように見えた。


「大臣!あなたは法的な解釈だけで、政治的な現実を無視している!我々の外務官の命が救われた代償として、ガプペ連合は、リムリア全土を巻き込む狂気の戦乱に足を踏み入れたのですよ!タズドットとの関係は修復不可能になり、黄金同盟全体の治安が崩壊すれば、誰が責任を取るというのか!」


 首相は、ゲイブ大臣の論理が、人命救助という美談を盾にしながら、外交的安定を破壊するという冷徹な欺瞞であることを見抜いていた。


 閣議室には、タズドットとの軍事衝突の轟音よりも大きな、ゲイブ大臣の権謀術数と首相の政治的な良心の衝突が響き渡っていた。


 しかし、首相の感情的な訴えは、ゲイブ大臣の持つ絶対的なカードの前では無力だった。


「首相、感情論は結構。我々の国民の命が危険に晒された。この事実の前では、タズドットの行為は断罪されるべきです。そして、我が連合国がリムリアの新たな秩序に協力することは、避けられない未来です。タズドットが侵略者である証拠が揃った今、あなたはミケ将軍を断罪する側に回りますか?それは、我が国の外務官を救った男を非難することになりますよ。」


 ゲイブ大臣は、人命救助という道徳的な美談と、タズドットの侵略計画という法的証拠を巧みに組み合わせ、首相の逃げ道を塞いだ。


 この一連の出来事は、ミケ将軍の軍事行動というよりも、ゲイブ大臣が仕掛けた緻密な情報戦と外交的クーデターの成功を意味していた。


 閣議室の議論は、ミケ将軍が起こした戦乱が、すでに国境を越え、ガプペ連合の内政にまで決定的な影響を与え始めていることを示していた。

――ガプペ連合閣議、その扉の向こうで何が崩れ、何が生まれたのか。


今回の章では、戦場の雄たるミケ将軍やレイ将軍ではなく、

“戦場の外で戦う者たち”を中心に描きました。


戦争は剣や槍だけで動くものではありません。

一枚の輸送許可書、一つの証言、一つの残骸。

それらが国家を揺らし、人々の価値観を塗り替え、

ついには大戦へと繋がっていきます。


ゲイブ・ジェンキンズ大臣はミケ将軍に並ぶ“もう一つの怪物”です。

彼はミケの狂気とは違い、

冷徹で、計算高く、そして誰よりも理性的に動きます。

しかし理性が極まれば、それは時に狂気よりも恐ろしくなる。


対して、ハメラン・パートリッジ首相は、

最後の良心ともいえる存在でありながら、

政治という巨大な流れの前で孤立し、押し流されようとしています。


この閣議室の一幕は、

国家が破滅へ転がり始める「最初のひび割れ」です。


これから物語は、

ミケ将軍の暴君的な戦略、

レイ将軍たちの華々しい戦勝、

そしてゲイブ大臣の暗躍によって、

さらに大きな戦乱へと膨れあがっていきます。


ガプペ連合の中立が崩れた瞬間——

あなたはその歴史の“証人”です。


引き続き、この世界の深奥へお付き合いいただければ幸いです。


――作者より

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