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GREAT HISTORY〜大史伝〜  作者: アイラル
第三部 ミケ将軍タズドット侵略編

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第五十九話 決議の夜、沈まぬ声

 ミケ軍の破壊魔法によって幌が引き裂かれ、秘密の武器が露呈した馬車の残骸の中から、レナード大隊長は、隠れていた御者や、タズドット兵の監視下に置かれていた数名の民間人を救出した。


 彼らはタズドットの侵略計画を知る、生きた証人だった。


 その救出された者の中に、ガプペ連合の地方外務官であるダリク・ダウニイングがいた。


 彼は、タズドット兵の監視下で、極秘裏に進む武器輸送計画に半ば強制的に協力させられていたのだ。


 ミケ軍の攻撃で、自らの命が脅かされた恐怖から解放されたダリクは、レナードに対し、文字通り土下座せんばかりに深く感謝の意を表明した。


「助かった……本当に助かった!ミケ将軍の軍隊が、私の命を救ってくださるとは……!」


 ダリクのこの純粋な感謝は、レナードにとっては予期せぬ政治的な得点となった。


 ミケ軍は、タズドットの「侵略者」というレッテルを剥がし、「人命を尊重する救助者」という、新たなイメージを世界に示す決定的な材料を得たのだ。


 この「人命救助」という行為は、その後に展開される情報戦において、ミケ軍の行動を正当化する最高の道徳的な盾となった。


 そして、ダリク・ダウニイング外務官は、救出の興奮冷めやらぬうちに、ある重大な発言をした。


 彼は、ミケ将軍がタズドットに最後通牒を突きつけ、猶予期間が過ぎていたという事実を思い起こした。


「……そもそも、タズドットへの最後通牒の期限は切れていたはず。我々が、タズドットの秘密の任務に協力させられていた間に、両国間はすでに法的に戦争状態に入っていた。したがって、ミケ軍がタズドット軍を攻撃し、その馬車を破壊した行為は、合法的リーガルな軍事行動である。それに加え、私は命を救われた。これ以上、ミケ軍の行動を非難する理由はない!」


 この外務官の「合法である」という見解は、ミケ将軍にとって、何十万という軍事力に匹敵する、外交上の勝利だった。


 中立の立場であるガプペ連合の外務官が、公然とミケ将軍の行動を是としたのだ。


 ミケ将軍の最重要協力者であり、ガプペ連合の巨悪であるゲイブ・ジェンキンズ大臣は、この情報を即座に入手した。


「知らずに死ぬは草木と腐るが如し。知って死ぬはこれ永生なり」


 彼の知略は、この機会を逃さなかった。彼はダリク・ダウニイングのこの「合法」発言と「感謝の言葉」を、最も効果的な方法で世界中に広め回ることを決意した。


 ゲイブ大臣は、自ら管理するガプペ連合の通信網、そしてリムリア内の隠れた人脈を総動員した。


 彼の指示により、以下の二つの情報が、黄金同盟諸国の隅々にまで、誇張と脚色を交えながら瞬く間に拡散された。


1. 「タズドットは平和を装い、ガプペ連合の外交特権を悪用し、リムリア侵略用の大量の武器を密輸していた!これは平和条約に対する明白な違反である!」(物的証拠の活用)


2. 「ミケ将軍の軍隊は、人命を尊重し、武器の密輸に巻き込まれたガプペ連合の外務官の命を救った。その外務官は、ミケ軍の行動が『合法な自衛』であることを公式に認めた!」(ダリク外務官の証言と人命救助の活用)


 この緻密な宣伝戦により、ミケ将軍への国際的な非難は一挙に沈静化した。


 これまでミケを「単なるテロリスト」と見なしていた黄金同盟の世論は、「ミケ将軍は、裏でリムリアを侵略しようとしていたタズドットから、国を守った『防衛者』である」という物語に、一斉に塗り替えられたのだ。

――『決議の夜、沈まぬ声』を終えて


 政治とは、時に刀剣よりも鋭く、戦場よりも残酷な舞台である。

 本話では、戦の最前線ではなく、国家の中枢に蠢く“もう一つの戦い”を描いた。


 会議における沈黙、取るに足らぬように見える反対意見、

 そして、議場の片隅から放たれた一声――。

 それらはすべて、国の命運を左右する引き金となり得る。


 武では測れぬ者たちの思惑が交錯し、

 利害で結ばれた者たちが握手と裏切りを繰り返し、

 正義と大義ですら政治の前には時に形骸と化す。


 だが、それでもなお、

 「沈まぬ声」を上げる者がいる限り、国は暗黒に沈み切らない。

 弱き声、小さき声でも、ひとたび議場の天井を震わせれば、

 それは巨大な軍勢をも動かしうる。


 本話が描いたのは、戦場ではない。

 盾も槍も存在しない“言葉の戦場”である。


 そして、その戦場こそが、

 時に最前線の何倍も国家を揺るがすのだ。


 次話では、この夜の決議がどのような余波を生み、

 誰がその波に乗り、誰が呑まれるのか――

 新たな政治劇と権謀術数が幕を開ける。


 読者諸君の沈まぬ声が、

 この物語にさらなる火をともしてくれることを、

 私は心より望んでいる。

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