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GREAT HISTORY〜大史伝〜  作者: アイラル
第三部 ミケ将軍タズドット侵略編

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第五十八話 暴かれた侵略の棺

 フィリップ副将軍の胸にレナードの魔弾が命中し、その命が尽きた瞬間、前線で彼の護衛を固めていたタズドット兵たちは、即座に武器を捨て、両手を挙げる「降伏のポーズ」をとった。


 しかし、彼らは決して心から降伏したわけではない。


 その目線は、ひたすらに後方の馬車隊に向けられていた。


 彼らは、ミケ軍の注意が自分たちに向いている間に、馬車の中に隠された秘密の武器を隠蔽し、あるいはブヌへの侵攻計画を知る御者や潜伏兵を逃がすための、命を懸けた時間稼ぎを試みていたのだ。


 タズドットとガプペ連合の間で秘密裏に進められていた、バツネ侵略計画の重要情報が露呈するのを阻止しなければならなかった。


 レナード大隊長は、彼らの意図を瞬時に見抜いた。


 ミケ軍の兵士たちは、もはや「捕虜の命」や「騎士道の精神」といった平和な時代の常識には支配されない。


 彼らにとって、戦場とは生存競争と褒賞獲得の場であり、そして情報こそが最大の褒賞だった。


「馬鹿な芝居は止めろ!全軍、馬車へ突撃!護衛を装う連中は全て捕らえろ!証拠を確保するぞ!リムリアのために!」


 レナードの指示は、護衛兵たちの偽装工作を完全に無視し、彼らの背後にある馬車隊へと突き進むものだった。


 タズドット兵が抵抗する間もなく、ミケ軍の兵士たちは彼らを打ちのめし、手足を縛り上げ、戦場から排除した。フィリップが死守しようとした「馬車の秘密」こそが、この戦闘における最も重要な戦略目標だと、レナードは正確に把握していた。


 彼にとって、この護衛兵たちは、単なる「兵士」ではなく、「侵略の計画書を運ぶ封筒」に過ぎなかった。


 レナード大隊長は、捕らえた護衛兵たちの必死な抵抗や哀願、あるいは「外交問題になるぞ」という恫喝を完全に無視し、馬車隊への攻撃を命じた。


「躊躇するな!魔法で馬車を木っ端微塵にしろ!リムリアのために!」


 ミケ軍の魔術師たちが、ためらいなく高出力の破壊魔法を放つ。


 ガプペ連合の商隊を装うために念入りに施されていた幌や木枠は、轟音と共に木屑と化し、積荷がギーラピの平野に広大に散乱した。


 まるで、外交上の偽りの仮面が剥がされたかのような、生々しい破壊だった。


 そこで露呈した光景は、戦場を支配していた混乱を一瞬にして吹き飛ばすほどの衝撃を伴っていた。


 散乱したのは、穀物や布地ではない。大量のタズドット軍の紋章が入った武器――最新式の銃剣、携行可能な短銃、そして爆薬の木箱が、野ざらしにされたのだ。


 木箱の一部には、ガプペ連合の輸出許可書が貼り付けられており、タズドットとガプペ連合との間の裏取引があったことを雄弁に物語っていた。


「なんだと……!タズドットは宣戦布告の前に、我々の国を奇襲する準備を進めていたのか!我らがリムリアが危機に瀕している」


 レナードは、その紋章と許可書を見た瞬間、今回の戦いの裏側に隠された真実を悟った。


 タズドットは、ガプペ連合の商隊という平和的な外交経路を悪用し、ミケ将軍の拠点であるバツネを奇襲するための侵略兵器を密かに運び込んでいたのだ。


 これは、リムリアの国境を脅かすだけでなく、黄金同盟全体の平和を裏切る行為だった。


 馬車の破壊は、同時に予期せぬ事態を引き起こした。


 破壊された馬車の残骸や、積荷の武器の下敷きになっていた空間から、数十名のタズドット兵が、まるで地中から湧き出るかのように飛び出してきたのだ。


 彼らは、フィリップ副将軍の部隊とは別に、馬車の中に隠れて潜伏していた侵攻作戦の特殊部隊の兵士たちだった。


「しまった!まだこんなに潜んでいたのか!」


 彼らは、御者と共に隠れていた、先に兵士が文句を言っていた、あの「特殊任務」を帯びた兵士たちだ。


 彼らは武器を手に取り、御者を盾にしながら、夜闇へと四方八方に逃亡を図った。


 彼らの使命は侵略の完遂だったが、今は一転して「生きてタズドット本国に情報を持ち帰る」という生存競争の論理が最優先された。


 彼らが持ち帰る情報は、「ミケ軍は侵略計画の証拠を掴んだ」という最悪の報告になるだろう。


 ミケ軍の精鋭50名では、数十名という数の兵士を、この混乱の中で全員捕らえることは不可能だった。


 レナードは、即座に情報価値の優劣を判断した。


 逃げる兵士か、リムリアの未来を左右する“黄金の真実”のどちらを選ぶべきだろうか。答えは決まっていた。


「追うな!馬車の御者と、捕らえた護衛兵を確保しろ!逃げた兵士など、放っておけ!我々が手に入れた侵略の物的証拠こそが、逃げた連中の命よりも遥かに重い!この証拠は、リムリア百万の命に値する!!」


 レナードの判断は、冷徹な勝利の論理に従っていた。


 逃げた兵士は、いずれタズドットの戦力として戻ってくるだろう。


 だが、この場で確保された「タズドット侵略の物的証拠」が持つ戦略的な価値は、その失われた数十名の命を遥かに凌駕する。


 レナード大隊長は、泥と武器の残骸にまみれた平野で、ミケ将軍に歴史的な大義名分という最高の贈り物を提供したのだ。


 そして、この血塗られた証拠の発見が、リムリア全土、そして黄金同盟諸国の世論を、一挙に反タズドットへと一変させる、決定的なトリガーとなるのである。

――その一撃が、戦場を割った。

副将軍フィリップの死と共に、崩れ落ちたのは兵の士気だけではない。

タズドットの兵たちが守ろうとした馬車の奥底から現れたのは、

穀物でも、交易品でもなかった。

露わになったのは、黄金同盟を裏切る“侵略の牙”。


銃剣、爆薬、潜伏兵。

そしてガプペ連合との密約を証明する許可書――。

外交の仮面は砕かれ、欺瞞の闇が陽光の下に晒される。


逃げ惑う特殊兵、崩れ落ちる嘘、揺らぐ大陸情勢。

レナードの冷徹な決断が、ミケ将軍の反撃の狼煙となり、

この瞬間、世界は“歴史の線”から大きく逸れ始めた。


真実を知った軍だけが、生き残る。

真実を暴いた軍だけが、正義を名乗る。

そして――

暴かれた侵略の証拠こそが、タズドットに向けられた最初の“断罪の刃”となる。


戦は、もう止まらない。

この発見が、大陸の均衡を破壊する“開戦の鐘”となるのだ。


進め、リムリアのために!

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