第五十五話 勤労感謝の日
その日、セルバチア学校の一室では、
マザール=デュマン先生とジャービト先生の二人が、のんびりと語り合っていた。
「いやあ……気づけば、長いことここで働いてますなあ」
マザール先生がしみじみ言うと、
ジャービト先生は肩をすくめて笑った。
「ほんまやな。月日が経つのは早いもんや」
マザール先生は、先輩であるジャービト先生の盃へと静かに酒を注ぐ。
それを受け取ったジャービト先生は、今度はマザール先生に注ぎ返した。
「最強は光魔法や。これは譲らんで」
「やれやれ……そう言ってまた酒を増やすんですから」
二人は笑い合い、声を揃えて杯を掲げた。
「「乾杯」」
酒をグイッと飲むと、二人とも自然と柔らかい笑顔になった。
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「お互い、生徒を見てきましたが……どうです?」
「わいのとこは、まあまあやな。そっちはどうや」
マザール先生は真面目な顔で答える。
「そうですね……タイランくんはよく成長しています。シャヒンくんも、魔法の扱いこそ拙いですが、所作は概ね合格でしょうか」
そう言って、彼は少し誇らしげに続けた。
「結局、人は所作が整ってこそ……ですからね」
ジャービト先生はその言葉に嬉しそうに頷く。
「人が立派に育つっちゅうのは、それだけで教師冥利につきるで。……ああ、そういや、うちのアフメトは天才的に絵が上手いんや」
「それなら、うちのタイランくんも絵が上手いですよ」
「ははっ、絵は才能や。努力もあるけどな」
二人はまた笑い合った。
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だが、話題がふと変わる。
「それと……一年のアルプなんやけどな。あいつは純粋ないじめをしてまう気質がある。まあ、あの様子なら父親を超えんでも優秀にはなるやろな」
その言葉に、マザール先生は表情を曇らせた。
「学校でのいじめは良くありません。辞めさせられないのですか? ああいうのは、放置してはいけないでしょう」
ジャービト先生はため息をついた。
「まあ……せやな。特性っちゅうもんやけど、変えんとあかん。それが道理やな。言っとくわ」
「分かってくださって良かったです」
互いにやれやれと笑い合った。
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やがて、ジャービト先生は帰り支度を始めた。
「さて、仕事も大変やけど……そろそろ帰らせてもらうで」
「分かりました。道中、お気をつけて。危険なものに出くわさぬよう……願っています」
本気の言葉に、ジャービト先生は胸に温かさを覚えながら教室を後にした。
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しかし、帰り道は静かではなかった。
夜道の先――
ジャービト先生は、バルラスに絡まれ、ボコボコにされているアルプを見つけてしまう。
「や、やめろって! 血の海の底まで沈める気かよ、お前ぇぇッ!」
バルラスは無造作に手を伸ばし、超能力の力でアルプの喉を宙へと掴み上げた。
「……しゃあない。さっさと倒すか」
ジャービト先生はため息ひとつ。
次の瞬間、空気が闇へと沈む。
「――闇の最上級魔法」
黒い閃光が走り、バルラスを一撃で吹き飛ばした。
地に沈んだその姿は、もはや動かない。
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「せ、先生……! 本当に、本当にありがとうございます……! 命が助かりました……!」
アルプは涙目で必死に頭を下げ続ける。
ジャービト先生は頭をかきながら言う。
「まあ、お前の歳じゃ勝てんわな。でも、いつかは倒せるようにならなあかんで。……それが成長や」
「む、無理です! 先生が退治してください! あんなの、敵いません……!」
「まあ……そのうち倒すつもりやけどな。どうしたもんか……」
ジャービト先生は本気で頭を悩ませる。
そんな彼に、アルプはぽつりと言った。
「……ジャービト先生、格好いいです」
その一言が、妙に胸に響いた。
ジャービト先生は思わず照れくさそうに笑った。




