幕間 ミケ将軍と三地方官の戦いⅧ
激しい戦闘が終わり、戦場には勝利の熱狂と、敗北の残骸だけが残された。
ミケ将軍は、馬上で静かに周囲を見渡した。
彼の部下たちが、武装解除された敵兵を管理し、負傷者の手当てに当たっている。
ミケ軍の兵士たちは疲労困憊であったが、その顔には、奇跡を成し遂げた者だけが持つ、誇り高い充実感が満ちていた。
やがて、副官が血にまみれた紙を手に、将軍の元へと歩み寄ってきた。それは、戦いの損耗を記した戦果報告書であった。
「将軍、報告いたします」
副官の声は震えていた。
その数字が、あまりにも現実離れしていたからだ。
副官は、言葉を選びながら、絞り出すように続けた。
「我々ミケ軍の損失は、わずか千名に留まりました。これに対し、三地方官軍の兵力は、計六千名が討ち取られ、残る一万二千も戦意を完全に喪失。ほとんどが捕虜、または敗走しました」
ミケ将軍は、三倍の兵力を持ちながら、自軍と全く同じ数の六千名を失った敵の損耗を確認した。
クラウスの三千、アーベルとラインヴァルトの千五百ずつの損失は、まさに将軍の計算通りに敵軍が各個撃破された結果を示していた。
ミケ将軍は、戦果報告書を静かに受け取ると、その顔に表情を変えることなく頷いた。
「千名の犠牲は重い。だが、彼らは、大義のためにこの戦いの扉を開いた。彼らの死を無駄にするな」
そして、彼は遠く地平線を見つめた。この戦いは、「数の暴力」が、「戦略、魔法、そして一瞬の勇気」によっていかに無力化されるかを示す、歴史に残る一戦となった。
六千の兵で、一万八千の敵軍を打ち破り、敵軍の損耗を自軍の六倍とする――。
ミケ将軍は、熟練した用兵術をもって、この勝利を歴史に刻み込んだのだった。
そして、回想は終わるのだった。
老人は、岩陰の地面に小枝で戦いの概略図を描いた。
「最終的に、ミケ軍が失ったのは千名。地方官軍が失ったのは、なんと六千名! あれは、戦いの歴史が変わる瞬間じゃった。儂はそれをこの目で見たんじゃ……」
(老人は再び水を飲み、安堵の息をついた。旅人はその話に聞き入り、感嘆の声を上げる。)
「すごいな、ミケ将軍。その名、忘れねえぜ。爺さん、命を賭けてすごいもんを見たもんだ。」
一万八千の強敵を前に、六千の寡兵が成し遂げた『奇跡』。語り部によって、その名は永遠に刻まれる。




