第三十四話 馬車レース
ある日のことだった。
「なあ、タイラン、知っているか、何でも馬車が行方不明になっているらしい」
「そうなんだ、気をつけなくちゃね」
「全くだな、タイラン」
夜中のことだったんだ、おいらが何と、びっくりすることに行方不明に次々になっていた馬車を一つ見つけたんだ、驚いたな、すると、おいらはよく似たおいらを見つけたんだ。
(おいらに似ているけど、いったい何者なんだ?)
タイランの姿をしたその存在は馬車に乗ってはこっそりと馬車主を襲っては次々に通りがかった馬車を行方不明にしていたんだ、このままでは、おいらが困ってしまう。
「そこのお前、やめてくれ、おいらの姿をした状態で悪さなんて働かないでくれ、頼むよ、おいらが困ってしまう」
だが、相手はそれに応えず、無言で作業でもするかのように続行するのだった。
そう、このままではまずい、そう思ったおいらはさっさとこの問題を解決すべく、襲われて怪我をしたばあさんに話しかけたんだ。
「おい、ばあさん、ちょっと馬車を借りていくよ」
「半マウンテンだよ、馬には気をつけな」
「ありがとよ、ばあさん」
そして、馬車を借りて、馬車レースを始めたんだ。
そいつはおいらに気がついて馬車に乗って、その場から離れて逃げ始めたんだ、なので、おいらとそいつの馬車レースは厳しいものとなったんだ。
「お前、逃げるんじゃない」
「………」
「何も応えないのか、まあいい、おいらのふりをするのをやめるんだ」
おいらはそいつを捕まえないといけないんだろうけど、逃げられてしまったんだ、また、会える日もあるだろう、その時は何とかしなくてはいけないね。
一方、前回の話から一週間後、リムリアの地の一つの拠点であるエルメゴメの館でスタン国王からそれぞれ地域を任された地方官である三地方官が、対ミケ連合を結ぶのであった。
一点目、目上の人であるスタン国王を倒すこと
二点目、人道上許し難い奴隷を痛めつけること
をやめるように俄然強気に要求するのだった。
「もうスタン国王は倒さなくていい、お前一人だ、戦うのをやめろ」
「俺様がなぜやめなければならない、やめるのはお前達の方だ、下郎、俺様に従え、俺様の下に来るのだ、大将軍の後援に手を貸すのだ、そうすればいいだろう」
「断らせてもらいます、従う気になれません、それよりも故郷のバツネの地でアーデルヘルム地方官に従って出頭して刑務所に入り、そして、子分を引き渡すべきです」
そして、クラウス地方官は宣言するのだった。
「ミケ将軍、もう、これ以上の悪さはやめるのです、これ以上悪さをしていてもいいことなどありません」
「それはどうかな」
「それはどういうことですか、果たして、どうして人として民を奴隷として売り捌き、それだけではありません、少女を奴隷として売り捌くのも頂けません」
「よいではないか」
「そんなことはありません、実に可哀想だとは思いませんか、人としてそれでは嫌われ憎まれ、まともな一生を添い遂げるなどできなくなってしまいますよ」
「俺様に従わなかったのだ、どうしようもあるまい、俺様に従って奴隷になってしまえばいいのだ、そう、それでいいではないか、果たしてどのような問題が起こるというのだ」
「我々が止めようと思っています」
「何が止めようと思っているだ、そもそも、少女達を売り捌く問題が起ころうにも起こる前に死んでしまうというのがオチだ」
「なんですと、本気で言っているのですか?」
「俺様に従わなかった小娘の最後などこの俺様が知らなかったとでも思っているのか、当然知っている、知っているがどうでもいい」
「なんですと、知っていて止めないとは」
「それよりも金と女を用意して部下と子分を可愛がることこそが肝要なのだ」
「何ということを言うのですか」
「それさえ出来ていないのではスタン国王と同じで第二の俺様を作るだけだ」
「そこは愛と勇気で補えないのですか」
「それではいけない、愛と勇気の手当ではこの国が荒れ果ててどうしようもなくなるのは当然決まったことになっているというものだ、俺様に従うのだ、よいな」
「許し難い暴挙です、本当ならここで剣を使ってあなたを叩き切るところです」
「俺様に従わなかったのだから、お前の立ち位置もそのままだ、誰が許すだと、決まっている、俺様が許すのだ、俺様こそが至上、俺様に逆らっているようではさらばだ、愚物よ」
こうして、念願の大将軍になる夢は叶わなかったのだった。
(俺様の夢が終わったのか、無念だ、このようなことになるなど、なぜだ、何故俺様を認めんのだ、だが、構うものか、俺様は最強だ)
それどころか故郷のバツネの地でアーデルヘルム地方官に従って出頭して刑務所に入るようにすら要求していたのである。
それが出来なくてもミケ将軍の配下の何人かを引き渡す様に要求していた、しかし、戦争犯罪者として裁かせる気はないのがミケ将軍だった。
ミケ将軍の配下は不安に駆られたが、ミケは一同を集めると見捨てる気はないと発言を繰り返すのだった。
「俺様がお前達を見捨てることはない」
「俺たちを見捨てないんすか、マジでありがとう」
「本当に感謝します」
「俺様に任せろ、俺様に従ったのだ、後悔などさせるものか」
ミケ将軍は上機嫌だった、多くの部下が不安になりながらも頼ってきたからだ。




