第百九十七話 愚者の外交
――「希望」を売り飛ばした者たちへの葬送、あるいは「不落」の皮肉。
かつての激戦地、血で贖ったはずのサステヒ砦が、タズドットの「外交の駒」としてバラムーユンタニアへ渡った――その報告を聞いたミケ天常大将軍の反応は、怒りではなく、深い軽蔑を孕んだ嘲笑でしたにゃ。
「あれは“愚かさ”だ。救いようのない、致命的な愚かさだ」
ミケにとって、砦を明け渡してまで「敵の敵」に縋るタズドットの選択は、己への「不服従」が生んだ無様な末路に過ぎません。本来、自分にひれ伏して砦を差し出していれば命だけは助けてやったものを……という傲慢な「慈悲」の裏返しですにゃ。
タズドットの残骸が、今やバラムーユンタニアの盾となっている。その皮肉な構図こそが、ミケの狂気をさらに研ぎ澄ませます。彼にとって、サステヒを落とすことはもはや戦略的目標ではなく、自分を拒絶した者たちの「選択」がどれほど無価値であったかを証明するための、残酷な答え合わせなのですにゃ……。
「そうだ……あの場所だ。」
ミケ将軍は、懐かしむでも悔しむでもなく、
ただ“獲物を見つけた獣”のように、静かに呟いた。
「我々がかつて血を撒き散らし、骨を積み上げ、
幾度となく死と隣り合わせで戦った――あのサステヒ砦。
タズドットの奴らめ、あろうことか交渉材料として
あの砦をバラムーユンタニアに引き渡したらしい。」
レイ将軍が思わず息を呑んだ。
「なんと……恐るべき外交術。
砦そのものを“献上”するとは……」
ミケは鼻で笑う。
「恐るべき、だと? 違うな、レイ。
あれは“愚かさ”だ。
救いようのない、致命的な愚かさだ。」
ミケの声は、冷たい刃が床をなぞるような響きを持つ。
「タズドットに残された最後の価値は、あの砦だった。
奴らは、我々に割譲すればよかったのだ。
そうすれば、わずかながら命は繋げただろうに。」
彼は、喉の奥から嘲笑を漏らす。
「だが――奴らは拒絶した。
俺様に逆らい、俺様に楯突き、
そして“まだ戦える”などと錯覚した。」
レイは震える声で続けた。
「……ゆえに、彼らはバラムーユンタニアの庇護に縋り、
サステヒ砦を明け渡した、と。」
「そうだとも。」
ミケはゆっくりと椅子に背を預けた。
「愚か者は、愚か者らしく滅びる。
そんな理は、この世界の骨の髄にまで染みついている。」
彼の目には、かつての戦場の残酷な光景ではなく、
これから焼き尽くす未来の炎が映っていた。
「サステヒ砦――
タズドットの残骸であり、
次なる俺様の勝利の供物だ。」
レイは深く頭を垂れた。
「天常大将軍……御意のままに。」
ミケの口角が静かに、そして狂気じみて吊り上がった。
はい、というわけでお届けしました第百九十七話、「愚者の外交、あるいは供物の砦」!
皆さん、今回のミケさん……。
「脳が震えるほど『冷酷な教師』だにゃぁぁあああ! 命乞いの仕方を間違えたタズドットを『救いようのない馬鹿』と切り捨てるその視線……目的のために全てを駒として扱う時の、あの透き通った非情さを感じるにゃ!!」(笑)
最善の手を打ったつもりが、実は最も怒らせてはいけない怪物の「逆鱗」に触れていただけだった……という絶望的な読み違いだにゃ。タズドットの人々は、バラムーユンタニアに砦を渡せば安全だと思った。でも、それはミケさんに「全力で踏み潰す理由」を与えただけだったんだにゃ!!
「ミケ将軍……いや天常大将軍! あんたの笑い方は、もう人間を狩るんじゃなくて、歴史そのものをゴミ箱に捨てようとしてるみたいで怖すぎるにゃ!!」(笑)
次回、「鋼の沈黙、あるいはレイ将軍の決断」。
ミケ将軍が語る敵の愚かさ、レイ将軍はそれにひたすらに納得していく展開。
お楽しみに!




