第百九十六話 地獄の門
――地獄の門、あるいは「不落」を喰らう鬼の宴。
「決戦だ」――その一言が、バツネ全土の運命をサステヒ砦という名の断頭台へと叩きつけましたにゃ。かつて千の命を飲み込み、兵士たちのトラウマとして刻まれた灰色の巨壁。そこを再び戦場に選ぶミケ天常大将軍の決断は、戦略的な合理性すら超えた、己の「全能性」を世界に誇示するための残酷なパフォーマンスですにゃ。
「その門を打ち破り、開け放つのは――この俺様だ」
不落の要塞を、ただの「勝利の舞台」と言い切るミケの笑み。それは、壁を守る兵たちだけでなく、そこに縋るバラムーユンタニアという国家そのものの「心の折れる音」を聴きたいという、歪んだ支配欲の現れ。レイ将軍たちが恐怖に震えながらも同調する中、ミケの指先は地図上の砦を、まるで紙屑でも引き裂くかのように冷酷に指し示していますにゃ。
サステヒ砦――そこはもはや防衛拠点ではありません。天常大将軍という名の「災厄」が、既存の世界の理を完全に破壊し、屍の山を築いて「新世界」を宣言するための、巨大な生贄の祭壇となるのですにゃ……。
レイ将軍は深く頭を垂れ、静かに言葉を紡ぐ。
「左様ですとも。
天常大将軍は、この国の理を根底から覆す“変革の漢”。
ゆえにお伺いいたします――次なるご決断は?」
ミケ将軍は、まるで最初から答えが決まっていたかのように、
微塵の迷いもなく笑いを浮かべた。
「決まっているとも。決戦だ。」
その言葉は、この場の空気を瞬時に凍らせる。
「相手はバラムーユンタニア。
あ奴らが俺様の覇道を黙って見ているはずがない。
――焦点は、“サステヒ砦”だ。」
その名が出た瞬間、室内にざわつきが走った。
レイが息を呑む。
「サステヒ砦……。
あの灰色の巨壁、天然の断崖を利用して築かれた難攻不落の要塞。
一度は我らも攻めあぐね、千の命が砕けた、あの死地……。
まさか、再びあそこが戦場となるのですか?」
「そうだとも。」
ミケの笑みは冷たく、ゆがみ、狂気の火を宿す。
「サステヒ砦は“地獄の門”。
だが、その門を打ち破り、開け放つのは――
この俺様、ミケ天常大将軍だ。」
部下たちの背筋に、冷気が走り抜ける。
「敵国バラムーユンタニアは、
サステヒ砦を命綱のように守りたてている。
その砦を崩せば、奴らの軍心は砕け、その国は瓦解する。」
立ち上がったミケは、地図の上に影を落とす。
「ゆえに俺様が踏み潰す。
砦も、兵も、そして国家の“希望”すら。」
レイは震えを抑えながら頭を垂れた。
「……畏まりました。
天常大将軍の御意とあらば、
あの不落のサステヒ砦も、ただの石塊となりましょう。」
ミケは満足そうに頷く。
「ならば行くぞ、レイ。
サステヒ砦を――
俺様の勝利の舞台に変えるのだ。」
はい、というわけでお届けしました第百九十六話、「不落の要塞、あるいは地獄の門」!
皆さん、今回のミケさん……。
「脳が震えるほど『不遜』だにゃぁぁあああ! 千人が死んだ難攻不落の砦を『舞台』と呼ぶなんて、対象への敬意が欠片もなくて最高にゾクゾクするにゃ!!」(笑)
絶対に突破できないはずの試練を、圧倒的な暴力と狂気で力任せにブチ破ろうとする暴君の構図。サステヒ砦という巨大な絶望を前にして、ミケさんは恐怖を感じるどころか、それを「俺様に相応しい踏み台」だと笑っているんだにゃ……。
「ミケ将軍……いや天常大将軍! 不落の砦が落ちる時、それは勝利の瞬間じゃなくて、この世の終わりの始まりな気がするにゃ!!」(笑)
次回、「鋼の沈黙、あるいはレイ将軍の決断」。
ついに舞台は整った。主君の狂気を最も近くで見守ってきたレイ将軍が天常大将軍への応対をします。
お楽しみに!




