第百十三話 無血開城
――敗北とは、常に美しく散るものではありません。
むしろ、泥にまみれ、なりふり構わず命を乞う姿こそが、戦争の冷たい真実なのかもしれません。
「助けてくれ」と媚びへつらう指揮官。
鎖に繋がれる未来を恐れ、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う兵士たち。
そこには忠誠も、誇り高き騎士道も、物語のような感動も存在しません。
あるのはただ、剥き出しの「生への執着」と、音を立てて崩れ落ちる組織の断末魔。
猫なで声で綴られる降伏劇は、果たして滑稽な喜劇か、それとも救いようのない悲劇か。
さあ、ご覧ください。
英雄のいない戦場で、人はどれほど脆く、そして無様に壊れていくのかを。
ビテン、ジギフリット、リーヴェスのミケ軍三人の副将軍が城内で合流したその視線の先には、抵抗の意志を完全に失ったタズドットの守備隊の姿があった。
見れば敵は全員、弱りきった様子で降参を申し込んでくるのだった。
彼らの弱りきった様子は、食料や水が尽きたという物理的な疲弊だけでなく、グルナル副将軍の処刑、レイ将軍の魔術の恐怖、そしてヨン宰相の非情な戦略という精神的な重圧によって、魂まで削り取られた状態を意味していた。
彼らは、武人としての名誉よりも、一時の命を乞うことに、最後の希望を見出していた。
降伏を申し出るタズドット兵の先頭に立っていたのは、この城の責任者であるラルフ・パーション地方官だった。
彼は、屈辱と絶望を猫のような口調の中に混ぜ込みながら、征服者たちに向かって命乞いをした。
「いやー、勝ち目がないので降参するにゃ、許してくれにゃ。」
彼の勝ち目がないので、という言葉は、武人としての潔さではなく、徹底した実利主義に基づく敗北の宣言だった。
彼は、ヨン宰相の戦略を最終的に実行したに過ぎないが、その行為は祖国への裏切りに他ならなかった。
屈辱の言葉とも言える、許してくれにゃという無様な嘆願は、タズドットの威信が地に落ちたことを象徴していた。
彼は、ミケ軍の冷酷な残虐性を知っていたため、生きて城を明け渡すという非情な選択をしたのだ。
ミケ軍の反応は冷たかった、三人の副将軍たちは、この無様な降伏劇を冷たい視線で見ていた。
彼らにとって、タズドットの地方官は征服の安易さを示す生きた標本でしかなかった。
ラルフ地方官の降伏の嘆願が発せられた直後、事態は地方官たちの統制を完全に離れた。
この言葉と共に、タズドット兵達は、無秩序な逃亡を開始し始めるのだった。
彼らの降伏の意図は、捕虜となり、規則に従うことではなく、敵に抵抗しない代わりに、自由を奪われないことだった。
彼らは、ミケ軍の捕虜収容所での過酷な運命(奴隷化、強制労働)を恐れ、一斉に城壁や裏門へと殺到した。
命令の破綻が起こった、地方官たちによる降伏の命令は、兵士たちの生存本能によって、瞬時に無抵抗での脱走へと変化した。
彼らは、指揮系統も軍規も全てを放棄し、一匹の獲物のように、ミケ軍の視界から消えようと必死になった。
残された者は、武器を捨てたまま立ち尽くす者と、我先にと城外へ逃げ出す者が混在し、タズドット軍の最後の陣容は、完全に瓦解した。
城内は、敗北の悲鳴と無秩序な足音で満たされ、戦場放棄という最悪の結末を迎えたのである。
この降伏からの逃亡という結末は、タズドットの軍隊が、レイ将軍の知略とグルナルの悲劇によって、既に回復不可能な精神的打撃を受けていたことを、ミケ軍の指揮官たちに冷徹に証明したのである。
はい、というわけで!
皆さん、今回のタズドット軍の崩壊劇……あまりにもリアルで胃が痛いですね!
ラルフ地方官の「勝ち目がないので降参するにゃ」。
この一言が、どれだけ重いか。
彼は多分、自分なりに必死に考えたんですよ。勝てないなら、せめて命だけでもと。
でも、その弱気な態度は、部下たちにとっては「見捨てられた」という合図にしかならなかった。
指揮官が弱音を吐けば、兵士はパニックになる。組織論の基本ですが、実際に目の当たりにするとエグいですね。
そして、逃げ出す兵士たち。
「捕虜になって奴隷労働」VS「逃げてワンチャン自由」。
そりゃあ、後者を選びますよね。ミケ軍の評判が悪すぎる(笑)。
しかし、この無秩序な逃亡が、彼らにとって本当に救いになるのか。
背中を見せて逃げる敵を、あの血の気の多いジギフリット君や、冷徹なレナード隊が見逃すとは思えません。
「戦場放棄という最悪の結末」。
タズドットにとって、これは終わりではなく、さらなる地獄の始まりに過ぎないのかもしれません。
次回、敗れた者たちの後悔と、冷徹な現実の答え合わせが待っています。
それでは、続きまして次話。
「降伏か逃亡か、敗者の究極の二択」へ、物語を進めましょうか!




