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GREAT HISTORY〜大史伝〜  作者: アイラル
第三部 ミケ将軍タズドット侵略編

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第百十一話 血を流さぬ敗北

 英雄の死が、必ずしも残された者に勇気を与えるわけではありません。


 無慈悲な処刑は、「背中を見せれば殺される」という恐怖を植え付けましたが、それ以上に「前に進んでも焼き殺される」という絶望を鮮明にしてしまいました。


 進むも地獄、退くも地獄。


 そんな挟み撃ちの状況で、平凡な人間が選べる選択肢など、たった一つしか残されていないのです。


 執務室に響くのは、剣戟けんげきの音ではなく、猫のような語尾の、あまりにも人間臭い嘆き声。


 それは、プライドと引き換えに明日を買う、最も賢く、そして最も惨めな決断の物語。

 ミケ軍の渡河開始という冷たい事実は、タズドット国境沿いの城塞都市を任されていたラルフ・パーション地方官と、ドーゲ・ヘルゲソン地方副官の執務室にもたらされた。


 この報せは、グルナル副将軍の悲劇的な処刑の記憶が新しい彼らにとって、抗うことのできない死の宣告に等しかった。


 それに対して、敵のラルフ・パーション地方官は、同じく領土を任せられている同僚のドーゲ・ヘルゲソン地方副官と、もはや形式的なものとなった話し合いをするのだった。


 ドーゲ地方副官は、焦燥と疲弊を隠しきれず、壁にもたれかかりながら、地方官であるラルフに、最後の望みを託すかのように問いかけた。


「それにしても今回どうするんだよ、ラルフ。 もう、宰相閣下からの援軍は絶望的だ。グルナル様の二の舞になりたくなければ、迅速な決断が必要だぞ。」


 ラルフ・パーション地方官は、両手で顔を覆い、猫のように唸りながら、抵抗の無意味さを自嘲気味に語った。


 彼の言葉には、武力による対抗という選択肢が、既に完全に消滅しているという絶望的な現実が滲み出ていた。


「どうしようもこうしようもないにゃ。 ドーゲ。どう考えても勝ち目はないにゃ。 敵はレイ将軍だにゃ?魔術の炎に焼かれるか、グルナル様のように逃げ過ぎで処刑されるか、どちらかだにゃ。」


 そして、彼は、自らの生存と、部下の無駄死にを避けるための唯一の道を、明確に、そして屈辱的に宣言した。


「降参にゃ。 抵抗は無意味な血の浪費だにゃ。それしかないにゃ。」


 彼の「降参」という言葉には、タズドットの防衛体制が、ヨン宰相の非情な戦略とグルナルの悲劇によって、精神的にも完全に崩壊していることが示されていた。


 ドーゲ・ヘルゲソン地方副官は、ラルフの冷徹な判断の論理的な正しさを理解しつつも、祖国と領土を守るという地方官としての職責との葛藤に苦しんだ。


「そうか、やっぱり降参するしかないか。 ミケ軍の武力は、我々の地方軍ごときでは、一瞬で塵にされるだろう。だとしても、タズドットの領土を無抵抗で明け渡すとは、無念だよな。 武人たちの血が、この状況を許すだろうか。」


 彼の「無念」は、武人としての誇りを政治的な現実によって押し殺されることへの悲哀だった。


 それに対し、ラルフ地方官は、現実逃避を許さない冷たい論理で、ドーゲの感傷を断ち切ろうとした。


「そんなこと言ってる場合じゃないにゃ。 ドーゲ。死んでしまえば、無念を晴らす機会すらなくなるにゃ。 生き残って、ヨン宰相の外交に希望を託すしかないにゃ。」


 「そうはいっても、わかっているよ……」 ドーゲは、深い溜息とともに、抵抗の意志を完全に手放した。


 こうして、ラルフ地方官とドーゲ地方副官は、数分間の絶望的な話し合いの結果、降参することで決まるのだった。


 彼らの決断は、ミケ軍がタズドットに一滴の血も流させずに、領土を確保するという、レイ将軍の戦略的な勝利を確約するものであり、タズドットの衰退を象徴する、最も屈辱的な瞬間だった。


 彼らは、自らの手で、祖国の防衛線に最大の亀裂を入れるという、非情な選択をしたのである。

はい、というわけで!


皆さん、今回のタズドット側の地方官、ラルフさん……キャラが立っているのに、出番が「降伏」だけ!


「どうしようもこうしようもないにゃ」。


このセリフ、真理すぎませんか?


ヨン宰相がグルナル君を処刑した意図は「軍の引き締め」だったはず。


けれど、現場に伝わったメッセージは「失敗したら殺すぞ」という恐怖だけでした。


結果、現場指揮官たちは「戦って死ぬか、逃げて処刑されるか」の二択を迫られ、第三の選択肢「戦わずに降参して、あわよくば生き残る」を選んでしまった。


恐怖政治の副作用が、最悪の形で出ましたね!


そして同僚のドーゲさん。


「無念だよな」と言いつつ、彼も心のどこかでホッとしているはずです。


だって、相手はあの「ミケ軍」ですから。


凡人が天才たちの暴力に晒される前に白旗を上げる。


これは臆病ではなく、一種の「生存本能」の勝利なのかもしれません。


さあ、門は開かれました。


血を一滴も流さず、プライドだけをドブに捨てて。


その開かれた門に、誰が一番に飛び込んでくるのか?


英雄か、それとも――?


それでは、続きまして次話。

「一番乗りは『金』の匂いに敏感な男」へ、物語を進めましょうか!

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