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GREAT HISTORY〜大史伝〜  作者: アイラル
第三部 ミケ将軍タズドット侵略編

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第百話 勇気なき誓い

――「勇気」とは、炎のように熱いものだと思っていました。


 けれど、本当に人を壊すのは、氷のように冷たい「義務」なのかもしれません。


 目の前に迫る、千五百の死神たち。


 鼓膜を揺らす地響きは、死へのカウントダウン。

 

 若き将軍の足は、情けないほどに震えています。


 それは死への恐怖か、それとも「戦わずに負け続けろ」という理不尽な命令への拒絶反応か。

 

 「英雄」の皮を剥がされ、ただの「肉の盾」となることを強いられた時、人の瞳からは光が消える。

 

 「守って、死ね」

 

 その言葉は、命令というよりも、自分と部下たちに向けた「呪い」でした。


 勝利なき戦い。栄光なき玉砕。

 

 さあ、ご覧ください。


 魂を殺した男が、震える膝で立ち尽くす、最も惨めで、最も崇高な「足止め」の始まりを。

 グルナル・ノイマン副将軍は、ヨン宰相との誓いによって、「タズドットのため、誇りを投げ出す」という非戦闘的な任務を受け入れた。


 しかし、理性によるその決断は、戦場という極限の現実の前で、脆くも崩れ去ろうとしていた。


 レイ将軍率いる1500名の地鳴りのような進軍が、グルナル副将軍の肉眼で確認できる距離にまで迫った瞬間、彼の精神の均衡は揺らいだ。


 彼は、遠くに見えるジギフリットの獰猛な旗印と、その後ろに控えるレイ将軍の軍隊の不気味な輝きを視認した。


 そして、グルナル副将軍は敵を確認するなり、及び腰となるのだった。


 彼の体は、本能的な恐怖から、一歩後ずさった。


 それは、武人として最も恥ずべき行為であり、彼の魂の崩壊を如実に示していた。


 彼の若い黒髪は汗に濡れ、顔色は青ざめていた。


 彼は、自己の感情を理性で抑え込もうとしたが、ミケ軍の冷酷な圧は、その理性を焼き尽くすかのように強烈だった。

 

 グルナルの瞳は、今や熱い情熱も、誇りも、そして武人としての「勇気」も、全てが失われた空虚な色をしていた。


 その瞳に勇気の色は付いてなかった。


 彼が背負うべきは、勇気ある突撃ではなく、戦力の温存という、卑怯にも似た使命だった。


 彼の心には、「ここで勇気を示せば、ヨン宰相の戦略が破綻し、国家が滅びる」という冷たい論理と、「臆病者」として兵士たちに嘲笑されることへの屈辱だけが残っていた。


 彼の及び腰は、個人的な恐怖だけでなく、国家の運命を背負うことへの重圧が招いたものだった。


 しかし、グルナルは、ヨン宰相との誓いを破ることはできなかった。


 誇りを捨てた代償として、彼は国家の命令を遂行しなければならなかった。


 彼は、震える声を絞り出し、兵士たちに絶望的な防御命令を下した。


「いいか、お前ら!決して、攻めに出てはならん! 何としてでも守れ!」


 彼の命令は、勝利を目指すものではなく、「持ちこたえろ」という延命の要求だった。そして、彼は、その延命の先に待つ悲惨な結末をも、兵士たちに突きつけた。


「守って死ね!いいな! 一歩も引くな!我々の目的は、時間を稼ぐことだ! 故郷の家族のために、この場でミケ軍の刃を防ぎきれ!」


「守って死ね」という命令は、武人としての絶望の極致だった。


 それは、「生還」を許さない玉砕の覚悟と、「勝利」を許されない防御の屈辱が混ざり合った、二重の悲劇だった。グルナルの声は、敗戦の予感に満ちていた。


 そして、グルナル副将軍は、震える手で周辺の防御を固めていくのだった。


 彼の命令の下、タズドットの兵士たちは、怯えながらも、最後の抵抗のための不完全な防御陣を急いで構築した。


 防御陣は脆弱な盾と槍で、ミケ軍の突撃と魔法の炎から身を守るための、希望なき円陣とも言えた。


 この時のグルナルの内面は、防御陣の後ろで、「これが、私が誇りを捨てて手に入れた任務なのか」という自問自答を繰り返していた。


 彼の冷たい決意は、ヨン宰相の戦略を成就させるという義務感のみによって支えられていた。


 彼の及び腰と絶望的な防御は、ミケ軍の圧倒的な優位性を、戦闘開始前に確定させたのである。


第百話記念に能力値を記載しました。


レナード・バンヤード大隊長


統率61

武力70

知力51

政治52


冷徹なる儀礼の銃剣

力強い大隊長、ジキフリット副将軍とは同期であり、仲は良い、彼とは古参の仲にある、ギーラピの戦いでは、50対500という絶望的な劣勢を前に、敵将フィリップ・フリーデン副将軍の「心臓」ただ一点に狙いを定め、敵の指揮系統を麻痺させて勝利を収めた。


フィリップ・フリーデン副将軍


統率51

武力60

知力46

政治47


焦燥の水の魔術師

タズドット軍の副将軍であり、ギーラピの地でミケ軍のレナード大隊長と激突した。本来の任務は、ガプペ連合の馬車隊を装った秘密裏の武器輸送の露払いという、外交上極めて重要なものだった。


ダリク・ダウニイング外務官


統率55

武力25

知力60

政治75


法の盾


ガプペ連合の地方外務官。その能力値が示す通り、武力は低いが、政治力と知力に秀でた、外交官僚の典型。タズドット軍の秘密裏の武器輸送に巻き込まれ、命の危険に晒されていたところをミケ軍に救出された。


ハメラン・パートリッジ首相


統率75

武力66

知力81

政治88


均衡の守護者


ガプペ連合の最高指導者であり、その驚異的な政治力と知力は、この時代の列国の中でも傑出している。彼の存在が、ガプペ連合を中立国として保ち、黄金同盟全体の平和を維持する礎であった。


アンセルム・バリエンダール大隊長


統率46

武力55

知力41

政治42


呑気なる茶会指揮官

タズドット軍に属する大隊長。その能力値が示す通り、戦場における才能は平均以下であり、この激動の時代において最も危険なタイプの軍人である。彼の階級は、純粋な実力ではなく、貴族としての血筋と、社交界での巧みな立ち振る舞いによって得られたもの。


トマス・フェグレーン大隊長


統率55

武力40

知力46

政治42


威信に縛られた誠実の盾

タズドット軍の黒髪の大隊長。その武力は高くないが、与えられた任務とタズドットの国威に対する強い責任感は、軍内で随一である。ブヌの防衛任務に就き、ミケ軍の不穏な動きに最大の警戒を払う、この時代の真面目な軍人の代表格。


アルフォンス・ホーカンソン地方官


統率55

武力49

知力44

政治45


虚飾の髪の支配者

タズドットの植民地セシェスを統治していた地方官。その能力値は、平和な植民地行政を滞りなく行うには十分だが、戦乱の時代に対応する指導力や知性は決定的に欠けている。彼の関心は、植民地の防衛よりも、自身の地位と外見、特に乱れのないきちんとした髪型を保つことに向けられていた。


バート・ミュルバリ大隊長


統率58

武力39

知力49

政治40


時流に乗る変節の官

タズドット軍の元大隊長であり、ミケ軍によるセシェス制圧後、レイ将軍によって新地方官に任命された男。武力は低いが、組織を回すための実務能力と、高い知性を活かした状況判断力に優れる。


ヨアキム・イェンソン大将軍


統率83

武力71

知力64

政治73


不屈の巨壁

タズドット軍を統べる最高指揮官。その名は長きにわたり国内に轟き、戦場を数十と経験した不屈の老将である。統率力は群を抜き、崩れかけた士気を一言で引き締め、広大な戦域を掌握する威厳と実力を兼ね備える。武力はそこそこであり、最前線の猛将には及ばぬものの、その老練な経験と巧妙な采配が、若き勇将を凌駕する。


ヴァルナル・オークランス副将軍


統率56

武力64

知力50

政治43


篭城の鬼

タズドット軍の副将軍。その武力は高く、一騎打ちにおいて相応の腕を持つが、知力と統率力は平均域に留まる。彼は正面からの大規模な野戦を嫌い、堅固な防御に頼る戦術を好む防戦のスペシャリストである。


マルク・バーダー隊長


統率43

武力68

知力42

政治41


影に潜む者

ミケ軍中央軍に属する隊長。その武力は高く、白兵戦において油断ならぬ実力を持ちながらも、他の能力値は平均以下に留まる。しかし、彼の真価は能力値に現れない特殊技能、すなわち潜入、偽装、そして敵の目を欺く技術にある。


ボントゥス・エクストランド副将軍


統率55

武力55

知力51

政治42


凡庸なる武の実行者

ボントゥス・エクストランド――奴は、火を噴くような大将軍たちがひしめき合う戦場にあって、一見して地味な男だ。しかし、その存在は決して侮れない! なぜなら、奴は全てを中途半端にこなすという、稀有な「万能の凡庸さ」を持っているからだ!


エディ・シェルバリ大隊長


統率56

武力43

知力47

政治45


混戦を支える現場の要

エディ・シェルバリ大隊長は、ミケ軍の中にあって「地味だが不可欠」な、実戦部隊の現場指揮官の典型だ。彼の能力値は全体的に平均的な水準に留まるが、そのバランスこそが、彼を信頼できる実行者としている。


はい、というわけで!


皆さん、今回のグルナル君……見ていて辛かったですねぇ!


「及び腰の将軍」。武人として、これほど不名誉な称号があるでしょうか?


今回のエグいポイントは、彼が「臆病だから震えているわけではない」という点です(半分は恐怖ですが)。


彼を震えさせているのは、「戦ってはいけない」という理性の鎖と、「目の前に死が迫っている」という本能の悲鳴、その板挟みによる精神のショートなんですよね。


そして、彼が絞り出した命令。


「守って死ね!」


いやあ、この言葉、指揮官としては0点ですが、悲劇の主人公としては100億点です!(笑)


「勝て」と言われれば、兵士は希望を持てる。


「逃げろ」と言われれば、命を拾える。


でも、「その場で動かずに死を受け入れろ」なんて、それはもう戦術命令ではなく、集団自殺の強要ですよ。


部下たちからすれば、「ふざけんな!」と叫びたいところでしょう。


でも、一番叫びたいのは、誰よりも誇りを重んじていたはずのグルナル君自身。


自分の口から出る「情けない命令」に、誰よりも彼自身が傷つき、絶望している。この自家中毒のような苦しみ、不幸な主人公が味わう「無力感」に通じるものがあって、作者としてはゾクゾクします!


さて、そんな「死に体の指揮官」と「絶望した兵士たち」の前に、レイ将軍という名の「合理的な死神」が迫っています。


「半端な名誉心」と「徹底的な合理性」がぶつかった時、戦場は地獄に変わる。


それでは、続きまして次話。


「灼熱の洗礼、あるいは名誉という名の自殺」へ、物語を進めましょうか!

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