(なろラジ6朗読作品)カレンダーは3年3月。ルームメイトは卒業での別れを寂しがっているけど、私はそれが杞憂だと知っている
「第6回小説家になろうラジオ大賞」にノミネートされ、2025年3月21日の放送で朗読されました。。
【キーワード:卒業 ルームメイト カレンダー】
「もうすぐ卒業だよー。オリヴィア」
そんなルームメイトのルナの問いかけに私は気怠そうに答える。
「そうだね。ルナ」
それでも念のために壁に掛けられたカレンダーをめくってみる。やっぱりこの3年3月で終わりだ。その後はない。
「ねえ」
私はルナの方に振り向く。
「ルナは卒業したらどうするんだっけ?」
「やだなあ。オリヴィア。何回同じこと聞くの?」
ルナは怒りもせず屈託のない笑顔を見せる。救われるわ。ルームメイトは明るく、おおらかな娘に限る。
「辺境伯令息のレオ様と結婚するの。所領はいろいろな食材の宝庫だって。学校で覚えたスキルが生かせそう。楽しみだなあ」
やっぱりこれも何も変わってないなあ。
「で、オリヴィアは卒業後どうするの?」
「何も決めてない」
「あはは。あと一週間で卒業だよ。オリヴィアはのんびり屋さんだねえ」
ころころと笑うルナを尻目に私は思う。そう。何も決めていない。いや正確に言えば、何も決められなかった。
今回も魔王も倒せなかったし、賢者の石も作れなかった。王子様とも騎士団長様とも辺境伯御令息ともそれなりに親密度を上げることはできたけど、婚約までには至らなかった。
私と婚約しなかった人たちは、私と同じ学校の別の女生徒と婚約する。ワイルドさのなかに優しさを秘めた辺境伯令息レオ様は私のルームメイトのルナと婚約するのだ。
「でもなあ、そんな オリヴィアとも後一週間でお別れなんて寂しいよ。辺境伯領にも遊びにきてね」
「うん」
私はテンプレ的に返事をするが、私はルナの心配が杞憂でしかないことを知り尽くしている。
一週間は瞬く間に過ぎ、我が母校王立貴族学院はなみだなみだの卒業式を迎えた。女生徒はみんな泣いていたし、ルナなどは号泣していた。しかし、やっぱり私は泣けなかった。
ルナはその日のうちにお迎えの馬車に乗って、辺境伯領に向かい、それを見送った私は寮の部屋に帰り、その晩は一人で寝た。
そして翌朝、私は昨日と変わらず学校へ出かけた。当たり前のように列に並ばされて、指定の席に誘導され、真新しい1年4月の表紙がついたカレンダーを渡される。
誘導された席の隣には三歳若返ったルームメイトがいて、相変わらず明るく声をかけてくれる。
「はじめまして。あなたが私のルームメイトなのね。私はルナ。あなたのお名前を教えてくれる?」
転生者である私にとって、これが何度目の入学式だろう。今度こそハピエンを勝ち取り、このループを抜けないとなあ。