二又の黒猫
どうも皆様泥陀羅没地です。
お久しぶりの方は久し振り、初めましての方はこんにちは…と言う訳でふと書いてみたくなった〝日常系〟です。
本当は〝短編〟にしようかと思っていたのですが…どうせ今後もふとした瞬間に書きたくなりそうなので息抜きの一つにします…このまま行けば息抜きの作品()が無限に広がりそうなのが少し怖いですが仕方有りません、我が人生全てを賭けて全ての小説を畳み切りましょう。
…常々思いますが腕と頭をもう一つずつ欲しくなりますね。
後は構成力と金と時間とets…人間の欲に限りはない物ですねぇ。
――ピピピピッ――
微睡みを破るのは目覚ましの電子音、沈む身体、眠りに蕩けた頭を持ち上げ、瞼を擦り、手探りに目覚まし時計の頭を探す。
――ピッ――
「フワァ…もう朝か…やはり夜更かしはするものじゃないな…」
昨夜は妙に寝付けない夜だった…近年増す猛暑の所為だろうか、兎にも角にも寝汗が酷い。
「取り敢えず汗を流そう…今日はシフトも無かった筈……あ」
寝惚けから覚めつつ有るその時、ふと気付く…スマートフォンから外れたままの充電ケーブル…。
「……はは、まさか…」
恐る恐るとスマートフォンへ手を伸ばす、そして、己の指が携帯の目覚めを呼ぶボタンに触れ、優しく押す…。
――ポチッ――
押すと感じるボタンの感触…本来ならばその数瞬後に点く画面の映像は一秒経っても、十秒経っても点くことはない。
「……嘘だろう…」
近年増す近代化、科学の進歩とソレに付随して増してゆく〝絶望〟…多くの人間が時たま出会うその絶望に何とも言えぬ気持ちに成りながら、今一度充電のプラグを挿し込み、ベッドから起き上がる。
「取り敢えず…シャワーを浴びよう……それから…御飯を食べて…うん、まったり過ごそうか」
何が良いかな……やっぱり御飯と、お味噌汁…後は…うん、沢庵漬けにしよう。
朝食を頭に浮かべながら、私は何時もの休日の空気に包まれていた…。
〜〜〜〜〜
特に行く宛も、予定も無く…取り敢えず何時もの公園に顔を出す……其処ではゲートボールを嗜み老様方が居り、白熱した空気を纏っていた…。
「流石じゃのう百爺さん…ん?…おぉ、〝綾坊〟!…久し振りじゃのう?」
何時も元気に過ごす老様方の事をぼ〜っと見つめていると、その視線に気づいたのか、最近腰をやって顔を出せないでいた〝東雲玄弥〟爺様が私に気付く。
「お久しぶり、玄弥爺…それと綾坊は止めて下さいよ、私はもう20歳ですよ?」
「カッカッカッ、儂等爺婆からすりゃ20歳なんぞまだまだ坊主よ…特にお前さん見たいな若いのは特に…最近じゃ孫も学勉で忙しいくてのう…中々会えんのよ」
公園のベンチに腰掛け、私と玄弥爺はゆったりと会話する…とは言っても中々御孫さんに会えない玄弥爺の愚痴を聞いている程度なのだが。
「確か由美ちゃんは中学生だっけ?…それじゃあ仕方無いでしょうよ、そろそろ高校へ向けて忙しくなる頃何ですし」
「じゃがのう…孫と会えんのは寂しいんじゃ!…儂等とて何時ぽっくり逝くか分からんのじゃぞ?」
「あんなに元気ならまだまだ大丈夫でしょ、健康診断だって二十代の人と遜色無かったって千代婆様が言ってたでしょう?」
「……それもそうじゃな?」
「「ハッハッハッ」」
そんな他愛も無い会話に花を咲かせていると、一度休憩となったのか他の爺様婆様方も此方へ集まり始める…。
近所の〇〇さんが三人目の子供を産んだなんて目出度い話も有れば、飼っていた老犬が寿命で亡くなったなんて物悲しい話も有る…。
日常で起こる愉快や寂しい零れ話を聞きながらも、ふと己の太腿に影が見える。
「お?…重役出勤じゃなぁ〝黒音〟」
「相変わらず黎君は動物に好かれてるねぇ」
其処に居たのは毛の艶やかな黒い猫…この子は〝黒音〟…始めて会った時から妙に懐かれ、私が黒音と名付けて以来皆からも黒音と呼ばれる事になり、それ以来ずっと私の太腿を陣取る野良猫だ。
「私の足なんかよりももっとフカフカの場所は有っただろうに…物好きだねぇ」
頭を撫でると黒音がゴロゴロと喉を鳴らす…この子に懐かれて以来時折座布団を持ってきては座る場所を用意しているのだが、何故だかこの子は私の膝下に座りたがる…夕暮れの頃には脚が痺れて大変な事になるが、それでもこの子は頑として譲らない、其処が憎たらしくも可愛い所なのだが……。
そうこう話す内に老様方がゲートボールを再開する…ソレを眺めながら黒音を撫でる内に夕暮れとなり、玄弥爺達が解散するのを見送る…そして。
「そういや綾坊、最近この辺で不審者がよう出るらしいぞ、お前さんもあまり夜遅くに出歩くなよ?」
「うん、分かったよ」
「…」
と、玄弥爺から注意されながら…夕焼け空を眺めて帰路に着く。
「…ん?…珍しいね黒音、何時もなら知らない内に消えてるのに…」
「…ニャ」
普段と変わらない帰り道…なのに今日は黒音が隣でポテポテと歩いている…珍しくも可愛いので特に気にも留めず、何時も通り道行く少年少女達へ注意喚起しながら帰路へつく……。
のんびりした空気に充てられてか、今日は道がやけに長く感じる…そう思いながら進んでいたその時だった。
「ニャ……」
ふと、黒音が鳴く…すると、大通りの小道の方に黒音が居り、私の方をじっと見ていた。
「?…其処がお前の帰り道なのか?」
私はそう言うも、黒音は当たり前だが答えず…ただ一足進む度に此方へ振り向く…。
「?……ついて行けば良いのかな?」
「…」
私がそう言うと黒音が今度は振り返らずに進む…その尻尾をゆらゆらと揺らしながら。
私はその後姿について行き、小道に足を踏み入れる……何故だが黒音が私を呼んでいる気がしたから…。
――ザッ…ザッ…ザッ…――
「へぇ…結構入り組んでるんだねぇ…」
何時もとは違う小さな変化に私は思わずそう感想を漏らす…空に映る夕暮れも、民家の並びも、寂れた道特有の怖さや美しさを魅入りながら進む。
黒音がそんな私を時折チラリと見ながら、進んでゆく…次第に小道は先細り、小さく小さくなってゆく…やがて人が二人進める程の狭さの道を進み、いつの間にから空が夜色を映し始めた時…漸く黒音が立ち止まる…。
「ん?……行き止まりだよ黒音?」
其処は妙に奥ばった行き止まり…こんな場所は今まで見たことも無いし先程来た寂れた雰囲気とはガラリと異なる空気感に思わず小首を傾げるも、私の股を通り抜ける黒音は何も語らずに居た…その時だった。
――フシャアァァァッ――
「ッ!?」
突然威嚇の声を上げる黒音に思わず驚き黒音を見る……その毛は逆立ち、尾を天へ突き上げるその様は、普段の黒音とは掛け離れた荒々しい気配を纏わせていた…。
その姿に驚きつつも何をそんなに怒っているのかと考えていると、その時。
「あぁ、匂う……この匂い、久しく嗅いだ〝酔血〟の匂いだ」
ふらりと突き当りの道から一人の男性が現れる…しかし、その開き切った瞳孔と口から溢れる涎、其処から覗く牙はとても人の物とは思えない程鋭利な物だった。
「あぁ、駄目だ…腹が減って仕方ない…おい、其処の〝酔肉〟の御人…」
「?…私…ですか?…」
「あぁそうだとも、お前さんだ、お前さんに頼みが有る…長い間何も食っちゃいねぇんで腹が空いて仕方ねぇんだ…頼む、三口…いや、一口だけで良いんだ」
ヨロヨロと近付くその男性は私へその目を合わせるとヨロヨロと近付きながら、そう声を絞り出す…その声は切実で、懇願する様にか細い…。
「たった一口ぽっきり、指でも、髪でも、足でも、腸でも何でも良いんだ…な?…頼むよ、一口で満足するからよォ…ッ!」
男性はそう言うと、遂には此方へ飛び掛かり俺へ手を伸ばす…その姿はもう人とは言えず、額に小さな角を生やした〝鬼〟の様な姿に変わっていた……。
その異様な変貌に思わず鼓動が高く鳴る…そしてその手が私へ伸び…その目を閉じたその時だった。
「ギシャアァァァッ!!!」
「ッ―――!?」
凄まじい猫の叫び声と同時に、何かが倒れる音が響き渡る…その音に思わず後退るも見えない視界の所為か、混乱の所為か何かに躓き尻餅をつく……。
その拍子に目が開き……私は更に驚愕する事になった…。
其処に居たのは血塗れの男性と、私の眼の前に顔を覗かせるもう一人の男性…突然の状況に、そしてまた…突然現れた男へ更に混乱が押し寄せてくる。
「…」
「あ……え…えっと……何方様で?」
「…」
「…あの…そうまで見られると照れる……ではなくッ、いや、どういう状況で!?」
この意味の分からない光景に私は思わずそう叫ぶ…まさか帰路へ着く最中の小さな冒険が、気が付けばこんな場所に辿り着き、理由の分からない事を言う錯乱した男?…に飛び掛かられ、挙げ句直ぐ目の前で此方へ顔を近付けて何も話さない男!…この光景を平然と見ていられる方が可笑しいだろうッ。
と、此方も動転しすぎて思考が定まらないその時…ふと、血塗れの男性が目に入る。
「と、取り敢えず手当…いやでも襲われて――ッじゃない、え、あーもうッ、取り敢えず死んでないですか!?」
私は駆け寄ろうにも駆け寄れないこの状況の中、最低限の生存確認にその男性に呼び掛けると、その身体はピクリと動き、男性は此方へ……と言うよりは私の目の前の男性に目を向ける。
「ッお前…は……〝猫又〟か!?…痛えッ…この化猫めッ…テメェ〝酔血〟を独占してぇのか…クソッ…痛えよぉッ…」
男性の言葉にふと気付く…目の前の男の背からチラリと見える二つの黒い尾を…。
そんな私を捨て置いて、目の前の男性はその目を血塗れの男性へ向けるとその毛を逆立たせて歩み寄る……。
「ッ……〝黒音〟?…」
その後姿に思わず有り得ない事を呟く…いや現在進行系で有り得ない事が起こっているのだから仕方無い…だがそんな私の声に、目の前の男性は振り返る…。
その瞳は…猫のように〝鋭く〟…〝黒音と同じ金色〟に光っていた…。
夢なのか、幻か……兎にも角にも私は目の前の状況に妄想の様な結論を付け、黒音へ近付く……。
――ジリッ――
するとその男性…いや、〝黒音〟が小さく後退る……その目は〝揺れ〟…何処か何かを恐れているような様子だった…。
ソレを見ながら、私は黒音の手を握り…その頭へ私の手を添える…。
「助けてくれたんだろう?……何が何だか分からないけれど…〝ありがとう〟」
「ッ――!」
そして、何時もの様に黒音を撫でると…黒音は驚いた様に一瞬固まり…しかしその顔に安らぎを浮かべ始めていた。
「…それと…貴方は、何者何ですか?」
「ッ!…」
「黒音、良い子だから待っていて…」
私がそう言い血塗れの男性へ近付くと、黒音が私の手を引こうとする…だが、そんな黒音へそう言い優しく手を抜くと…黒音が迷う様に足踏みし、私の直ぐ後ろへ着いてくる。
「…その角…角、ですよね?」
「……」
「あの…私の勘違いや妄想なら笑って貰っても構わないのですが……〝鬼〟…や、〝妖怪〟の類……でしょうか?」
私が言葉を紡ぎながらそう言うと、遂にその男性は諦めたように言葉を紡ぎ始める。
「ッ…あぁ、そうだよ…ッ、俺も、テメェさんの後ろに居る畜生もテメェ等人間が言う〝妖怪〟って奴さ…」
「……では、私を襲ったのは――」
「そうさ、テメェを喰い殺そうとしてたのさッ…今じゃこの世は人間の時代だ…俺達の大半は皆〝陰陽師〟や〝寺の坊主〟に狩られてやがる…もう、何百年と飢えてる奴等だって居る…!…このままじゃ飢え死にだッ…」
吐き出す様にそう嘆く鬼の男性はそう言い私を見る…その哀愁と遣る瀬ない姿に胸が締め付けられる。
「……〝酔肉〟…と言うのは?」
「………テメェの事…いや、テメェみてぇな体質の人間の事だ…妖怪にとっちゃ極上の馳走、一口食えば何十年も腹が満ち、二口食えば何百年と生き長らえ、丸々一匹食えばその妖怪は永劫に生きられる…そんな何百年に一人、いや…何千年に一人ですら生まれねぇ極上の人間だ…俺だって見たときゃ心臓が跳ね回ったぜ…眉唾や嘘っぱちだと思ってたもんが、直ぐ目の前に有るんだからよぉ…ッ」
鬼の言葉に私は納得する…道理でアレだけ必死だった訳だ、腹が減って仕方の無い時に、堪らなくいい匂いのする御馳走を目にすれば誰だって我を忘れてしまうだろう……。
「あぁ…クソッ……痛え、腹が減って仕方ねぇ…ッ、折角、折角夢にまで見た〝酔肉〟だってのによぉ…」
「……」
そう言い半ば消え掛けの男性の言葉を聞き…私はその手を差し伸べる……。
「……は?」
「…〝血〟…だけなら…少しだけ…食べますか?」
「ッ!?」
私の言葉に空気が固まる…鬼の男性も、黒音も…動揺した様に私を見る…。
「な、何言ってんだテメェ……頭でも狂ったか?…俺は今し方テメェを喰い殺そうとしたんだぞ?…だのに目の前に腕ェちらつかせるたぁどういう事だ!?」
怒鳴る様に鬼の男性は私を見る、黒音も止める様に私の肩に手を当てる…。
狂っていると言われても仕方無いだろう…正直今の私はどうにかしてると思う…こんな状況に狂ったと言われても何も言い返せない…だが、それでも。
「お腹が空いているんでしょう?…私の肉は上げられない、ソレに痛いのは好きじゃない…でも、ほら…血なら減っても作られるし…肉程じゃなくても生きられるでしょう?……なら、ちょっとだけなら食べさせてあげられるじゃ無いですか…」
「……」
「正直な話、今後貴方が人を襲わない保証は無い…いや、襲うかも知れない…けれど目の前で苦しそうにされるのは目覚めが悪い…人を食べる以上、私と貴方は相容れないでしょう…でも、貴方自身を憎む事は出来ません…貴方はそう言う風に生まれてしまったなら、そう言う風に生きるしか無い…私はその在り方を否定したくない…私は〝苦しむ貴方を救いたい〟…だから、ちょっとだけ、私の血を貴方に譲ろうと思う…それが半端に苦しむ事になるとしても…今はそうしたい……だから、どうぞ…」
「「……」」
私の言葉に二人は押し黙る……そして、目の前の私の手を見ながら、その男性は少し〝躊躇い〟…やがて、観念した様に口を開く。
「あ、あまり強く噛まないで下さいね…指が取れちゃうのは嫌なので…」
私の言葉に鬼は私をちらりと見て、そして指を口で挟む。
――プツッ――
「ッつぅ!」
「ッ…」
指が痛む……その指の傷から、血が滲み…指の先を伝い集まり始める……すると、指から口を離し、鬼の男性はその舌で私の指を舐め始める。
「ッ…ゥ……メェ…」
私の血を舐めながら、鬼はその目に涙を溜める……きっと何日も何十日も何も食わずに居たのだろう……その空腹がどれだけ辛いのか、分かってやる事は出来ない…。
「…大丈夫…逃げないから…ゆっくりお食べ…」
だが、せめて…この一時だけでも癒してやれるなら…その辛さを片時だけ救えるならばソレに越した事は無いだろう。
「……もう、大丈夫ですか?」
「……おう」
ソレから少しして、すっかり薄れた身体を取り戻した鬼の男性は、私の言葉に何処かぶっきらぼうにそう返し、私を見る。
「…コレから、毎日少しずつ血を溜めておくからお腹が空いたならおいでよ、お仲間が居るならお仲間も一緒に…なるべくで良いから、出来るだけ人は襲わないでくれると嬉しいけれど…無理強いはしないから」
「……ありがとよ、人間…俺ァ…〝夜之助〟だ…アンタ様は?」
私は礼を言い私へそう聞く鬼…〝夜之助〟を見て答える。
「〝綾華黎〟だよ…それじゃあ私はもう帰るね…行こ、黒音」
「……」
私はそう言い夜更けの前に帰路へ着く……。
「〝綾華黎〟…この御恩は、忘れねぇぜ」
振り返ると既に其処に夜之助は居なかった…。
こうして私の日常…とは少し違う、奇妙な一日は終わり、そしてこの奇妙な一日を境に、私の日常にほんのちょっぴりとだけ、〝妖怪〟が混じる様に成った……けれどまぁ、一番の変化は――。
――ギュムッ――
「ッ……あ、朝…おはよ、〝黒音〟」
私の目覚ましが機械ではなく〝猫〟に成った事かな?…。
前書きに書き忘れていましたが、コレは飽く迄も〝息抜き〟の作品…投稿頻度は絶望的に低いです、不定期に投稿されます、何なら息抜き作はコレから増えてもっと投稿頻度は減るかも知れませんが、ふとした時に見に来て頂けると幸いです。
(他の作品が完結していけば、或いは投稿頻度が早くなるかも……何て軽はずみな事を言ってみたり…はい、頑張ります)