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クール聖女とアンラッキーギャル  作者: キノハタ


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エピローグ 五 愛とか営みとか おまけ

 「―――え?」


 「………………『処女……受胎』……?」


 「……………………あはは」


 「……………………」


 帰りの更衣室で少し遅れて現れた私達を見て、るいとえるはしばらく信じられないものを見るような目で立ち尽くしていた。


 あ、あはは。そだよね、二人にはやっぱり見えちゃうよね……。


 私はそっとあやかの身体を抱き寄せながら、ゆっくりと首を横に振った。


 そんなあやかはいまだにどこか真っ赤な顔をしたままで、どことなく自分のお腹辺りをきゅっと抑える様に手を添えていた。


 「……………………」


 「……………………………………」


 気まずい沈黙。


 「………………いや、さすがにしてないよ?」


 私がそう発言して、ようやくるいとえるの目が正気に戻った。あれ。そんなに私やりそうかなあ……。


 それから二人で必死に眼を凝らして、私の言葉の真意を測ったうえで、ようやくおっきな声を上げた。


 「び、び、びびったあ!!! よく見たら未遂じゃん!!??」


 「……使いかけの残り香。あやかの身体には何の異常もない」


 う、いや、まあ実際使いかけたから、何も言えないんだけど、でも私そこまで見境なく見えるかなぁ。


 「さすがに、その……しないよ。まだ学生だし、あやかのお父さんにもお世話になってるところだし。『治癒』の奇跡もさすがに弱くなっちゃうかもだし、子どもの命もかかってるわけだから、そんな無責任なことしません……よ?」


 「だ、だ、だよねえ!? いや、びびった、まじびびった。いや別に悪いことではないけどさあ、初体験で、初っ端でデキちゃったのかと想って、心臓に悪いわ?!」


 「………………今の一瞬で、思わず人生設計を組みなおした……。出産費用と子どもが成人するまでの養育費を出すには、さすがに私もまだ貯蓄が足りない。……でも杞憂でよかった」


 「あ、あははは…………」


 そうやってやいのやいの言いながら、私たちが喋ってる間、あやかはずっと顔を真っ赤にしたまま俯いて、自分のお腹を何かを確かめるみたいに撫でていた。


 それを見ていると少し、罪悪感が募ってくるというか、さすがにやりすぎてしまったと想わなくもないと言うか。


 いや、でもなあ……。


 るいとえるが一息ついて、更衣室へ向かっている最中、一緒に向かおうとしたら、ふっと足が止められた。


 振り向いたら私の手をあやかがじっと握ってて。


 なんだろって想ってる間に、君はそっと私の耳に口を寄せてきた。


 それから、秘密の約束を囁くように、甘い愛を言祝ぐみたいに。


 熱い息と、高く小さな声で、私の耳を濡らしながら、ゆっくりと口を開いた。



 「私たちが、まだ子どもだから、止めてくれたの―――?」



 そう。



 「じゃあ、もっとちゃんと大人になったら―――してくれる?」




 ―――私の理性を溶かすような言葉を吐いて。



 …………おかしいなあ、さっきまで私の方が攻めていたような気がするんだけれど。



 気づいたら、全部あやかに望まれるままだったんじゃないかって想えてくる。



 前を行く二人に悟られないように、そっと唇に指をあてて、しーっと声を抑える。




 これはもしかすると、とんでもない人の隣にいること選んだのでは、なんて考えながら。




 それでももう遅いのだ。君の隣にいることを私は自分の意思で選んでしまったから。




 何より私の心がそれを幸せと感じてしまうようになったから。




 私はもう君の隣から離れられそうにないみたい。




 「うん―――ちゃんと産まれてくる子どもを受容れる準備ができてからね?」




 私がそう言うと、君はにっこりと、心底嬉しそうな顔をして、こっそり私に抱き着いてきた。



 ああ、だめだ。その顔を見ていたら、結局全部受け入れてしまいそう。大変なことになったなあとは想うけど、後悔だけは一ミリ湧いてこない。考えること、準備しなきゃいけないことは、山ほどあるはずなんだけどね。



 でも、全部私の意思で決めたことだから。



 もしかして、いろいろと私の脳も、すっかり手遅れになってしまっているのかもしれない。



 それにしてもえらいぞ、私、今日はすごい理性を働かせまくった気がする。



 そもそもは、あの瞬間。



 あやかに『処女受胎』の話をした、あの瞬間。



 あやかに『どうしたい』なんて問いかけた、あの瞬間に。







 君に『みやび―――()()()()()?』なんて言われてしまって。







 壊れいてもおかしくなかったのは、どう考えても私の方だった。


 うっかり奇跡も使いかけたし。


 まーじでえらい、教会で培った鉄の理性も無駄じゃなかった。いや、もうとっくにそんなのものあやかにどろどろに溶かされている気はするんだけれど。


 ちょっと一息ついて、ぽふって君の肩に頭を乗せたら、君は笑ってあやすように撫でてくれた。


 ああ、これからはもうちょっと理性を保てるようになろう。でないと学生のうちにママになってしまう。まあ、あやかと一緒にダブルママなんだけどさ。


 それもいいかなーとか、思わなくも無いけれど。産まれてくる子に変な重りは背負わせたくない。私もあやかも親子関係では苦労してるしね。できるだけ準備はしておきましょう。


 それに、やっぱり欲は溺れすぎもダメだからね、大切な人の人生を傷つけて蔑ろにしてまで叶えるようなものでないんだから。


 でも、君のことを大事に思えば思うほど、少し傷つけてみたくなる。そして、どうやったらもっと私の愛を思い知ってくれるんだろって考えてしまうこの心は。


 はてさて一体、どういう風に出来ているのやら。


 本当の意味で傷つけたりは、絶対にしないけどね。




 まあ、とりあえず、今日はたっぷり遊んで楽しみましたので。


 帰ってゆっくり休むとしよっか。


 そんな夏の初めての遊びにしては、ちょっと甘くて爛れた想い出を胸に抱えたまま。


 私達四人は帰りの電車に乗ったのでした。


 がたん、ごとん、がたん、ごとんと。


 電車が私たちを運んでいく音を背景にして。


 夏の真っ赤な夕日に照らされながら。


 みんなで肩を寄せ合って。


 遊び疲れた私たちは、誰ともなく、寝息を立て始めた。


 隣に座る君の鼓動を、落ちる意識の狭間で静かに感じながら。


 確かな想い出を胸にしまったまま。


 すやすや眠る私たちを、電車はゆっくりと運んでいった。 


 夏も盛り、夕暮れ時のことだった。

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