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クール聖女とアンラッキーギャル  作者: キノハタ


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18/42

しきよく 一

 たまに想うことがある。


 みやびはなんで、こんなに私によくしてくれるんだろうか。


 私にあれだけ気前よく使ってくれる奇跡も、どうにも外であんまり気軽に使っていいものでもないらしいし、知られていいものでもないらしい。まあ、そりゃあそうだよね。でないとみやびの周りには、毎日怪我人が行列を作ることになってしまう。


 じゃあ。なんで私にだけ毎日毎日、あんなに丁寧に奇跡を施してくれるんだろう。


 そして、なんで私だけがみやびの奇跡で……その気持ちよくなって……しまうんだろう。


 我ながらあまり足りてない脳みそでうんうん唸ってみるけれど、いまいち答えは出てくれない。


 考えられるとしたら、私が車に轢かれる前、みやびと何を話してたかに理由がある気はするけれど。


 残念ながらそこんとこの記憶は私にはさっぱり残ってない。事故の後遺症ってことらしかったけど、私は一体みやびと何を話していたんだろう。


 そして、何も覚えていないままに、みやびに一方的に大事にされている、この現状が今の私には少しむず痒い。


 だから、期末試験が終わって、一息ついたそんな頃に思い切って聞いてみた。


 だけどみやびの答えは。


 「お互いの身の上話とか話しただけだよ。私が聖女なこととか、あやかがなんでこっちに越してきたかとか」


 「うーん。その時どんな感じで話してたの? 私泣いてたりとかしてない?」


 「むしろ私が泣いてた」


 「……そっか」


 当たり前だけど、その時の私が何を想って、どんなテンションで話してたとかまではわかんない。みやびが泣いてたってことは、多少、心に響くようなことがあったのかな。


 そうだとしても、みやびが伝えてくれる情報も断片的で、全てを窺い知ること難しい。


 「ふふ、凄かったよ。教会の隅からこっそり塀を登って私を外に連れ出そうとしたからね」


 ただ、そこそこ馬鹿はやってたらしい。さすがは私。そしてそれを想い出しながら語るみやびの顔が、何か大事な記憶を懐かしむような顔をしてるから、覚えてない私はなんともいたたまれなくなる。


 もちろん、それをなしたのはどう考えても私なんだけど。でも、私の主観的に私でないというか。


 何を想って、何を感じてあやかを連れ出そうとしたのか、それは結局なくした記憶の中の私しか知らなくて、みやびはその記憶を多分大事にしてくれていて。


 それはきっと喜ばしいことだけど、今の私は正直ちょっと置いてけぼりだ。


 もちろん、みやびが私のことを、出会って数週間の転校生とは思えないくらいに大事にしてくれてるのはよくわかる。彼女が優しいことを差し引いても、きっと特別に大事にしてくれている。だから友達として、それに応えたいのだけれど、肝心の私にはその大切部分の記憶がない。


 事故で無くした記憶の中の私だけが、そのやりとりを知っている。それが妙にもどかしくて、変な話、自分相手なのに妬ましいような、歯痒いような気持ちが湧いてくる。


 だって、みやびが大事にしてくれてる「あやか」と今ここにいる私は少し違う。


 それを少し寂しいと想ってしまうのは、おかしいだろうか。


 結局私は何も言えずに、隣の席のみやびに頭をうりうりと擦り付けていた。それにみやびは不思議そうに首を傾げて、担任のまこちゃんには何故かあらあらと微笑まれた。


 この気持ちはどうすれば、収まるのかな……。










 「『傷』に『癒し』を」


  蝉の音が既にうるさいそんな雲一つない眩しい朝。校門前で見つけたあやかに声をかけると同時にそう奇跡をかける。


 後ろから見ただけでも、太ももあたりに打ち身の跡があった。これは、またどこかでこけたのかな。


 「ふひゅぅ……」


 案の定、あやかはいつも通りそう少し上擦った声を出して、軽く身を震わせた。


 ……聞かないと言った手前、必要以上には聞かないけど。やっぱり気になるのは正直なところだった。


 「おはよ」


 そう声をかけるとあやかはこっちをゆっくり振り返った。ただその表情は若干涙目、あー、急にやるのはまずかったかな。


 「……おはよ」


 「……ごめん、急にやるのはまずかった?」


 「いや、油断してただけだから。大丈夫……」


 という割には、口元がもにょもにょしていて、はっきりしない。原因は……十中八九、私が知らない副作用のせいだけど。


 ………………やっぱり、私がかけないほうがいいのかな。


 るいとかえるとかにかけてもらった方が、あやかは嫌じゃないのかも。


 というか、そっちの方が合理的だ。いくら私の方が綺麗に治るって言っても、変なリスクが伴うんなら私がやるべきじゃない。というか、もっと早くその考えに至るべきだし。そう想ったのにうまく言葉に出せてこなかった。


 …………なんでだろ、あやかのことを想うんならおのずと答えは決まっているのに。


 少しだけ胸が痛くなるのはなんでなんだろう。


 「ねえ、あやかやっぱり副作用があるんなら―――」


 ただ、そう口にした瞬間に。


 「おっはよーう!」


 あやかと一緒に肩に思いっきり体重を掛けられて二人揃ってつんのめる。振り返るとそこには眩しい笑顔のるいがいて、後ろからえるがすっと音もなく姿を現した。


 「おはよ」


 「おっはよう、るいちゃん、えるちゃん」


 「……二人ともおはよう」


 思い思いに挨拶して、校門までの道のりを四人で歩く。私としては少し話しが途切れてしまったから、何ともいたたまれない気持ちになる。


 「…………ん、どったん? 二人とも喧嘩でもした?」


 ……ただ、こういう時のるいは結構めざとい。微妙に気まずい空気をどうやら察せられてしまったらしい。う、と呻き声が私の隣から漏れているし、隠し通すのも無理そうだ。


 「……喧嘩とかしてない。ただ、私が急にあやかに……使ったからびっくりさせちゃっただけ」


 私がそういうと、るいはあー、と軽く声を漏らすとあやかの顔をじろじろ見ていた。


 「それは割とマジでお邪魔したかな」


 「なんでそーなるの」


 「……あはは」


 「………………」


 まあ、でも丁度いいのかと私は軽くため息をつく。合理的に考えればきっとその方がいい。あやかのためなんだから、るいとえるには少し手間を掛けるけど、それくらいなら引き受けてくれる子たちのはずだし。あやかもどうにも、私の副作用のことに関してはるいとえるには喋ってるみたいだし。


 「……ねえ、るい、える。今度からあやかの治療、私の代わりに……してくれない? 私だと副作用とかある……みたいだし」


 それが一番合理的、それが一番あやかのため。


 そんなことわかってる。わかってるけど、なんで胸が痛いのか。


 でも、それでもあやかの身体のことを考えたら、これが一番なはずだから―――。




 「はぁ? 嫌だが?」




 「……私も遠慮する」




 そう考えていたんだけれど、……こいつら。


 「………………理由は?」


 「え? だって、そんなの面白くないから」


 「…………それに私達の『  』はみやびほど多用出来ない」


 えるの理由はまだわかる。でもるいのは完全に愉快犯の答えだろ。


 息が荒れるのを少しだけ感じながら、思わず熱さとは違う理由で目が眩む。


 ただそうやって眼を逸らしている間に、るいはえるを連れてさっさと走り出してしまっていた。


 「代わって欲しけりゃ、あやかからちゃんと副作用のことを聞き出してから、一昨日きやがれ!」


 「…………がんばって、みやびも、あやかも」


 私とあやかはただ茫然とその姿を見送って、校門前で人の列に紛れながら二人して立ち尽くしていた。


 そっと隣を窺ったあやかの顔が、少し紅いままなのは、夏の暑さのせいなのか、それ以外の理由があるのか。


 何もわからないまま、私たちはただ黙って向かい合っていた。


 蝉の音と、周りの学生たちのざわざわとした声だけが、ただ私たちの間を満たしていた。

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