深夜、幼女を拾う 7
家に帰って朝食を済ませると、蛍太郎は日本史の授業で使っている資料集を取り出した。
「タマ。ちょっとお前にクイズを出したい」
「おっ、いいねぇ。何でも出してよ」
日本史なら小中学校でも授業がある。簡単な知識を問うものなら答えられるはずだ。
「第1問。日本の時代区分で、旧石器時代、縄文時代、弥生時代の次にくるのは?」
「えっと、奈良時代? あ、違う。鎌倉?」
これは、単純に勉強不足っぽい。
「古墳時代だ。その次が飛鳥、奈良がその次だ」
「そっかぁ。やっぱり記憶があいまいなのかなぁ」
「記憶喪失を言い訳にするな」
しかし日本の時代と訊かれて、きちんと名前を出せたところを見ると、やはり一般常識や知識は残っているようだ。もう何問か出して、確かめよう。
「第2問。源頼朝が鎌倉幕府を成立したのは何年?」
「これはわかる! 『いい国作ろう鎌倉幕府』だから、1192年!」
「うーん、語呂合わせは間違っちゃいないが、確か今は『いい箱作ろう鎌倉幕府』で1185年ってのが定説だ」
「何で!? せっかく合ってると思ったのに!」
ひと昔前の覚え方をしているが、やっぱり知識はきちんとある。
それからも理科や数学、国語の問題を出してみたが、きちんと答えた。間違ったのもただ勉強不足なだけだ。教えたらきちんと納得した。
これではっきりした。タマに無いのは、彼女自身に関する記憶だけだ。
それがどうしてなのかは、未だ不明のままだが。
「どうすりゃ戻るんだろうな」
「それがわかれば苦労しないよ」
蛍太郎は、もうすぐ登校しなければならない時間だ。このままタマを家に残していくのは不安だが、仕方ない。今日の講義は全て必修単位だ。
「タマ。俺は大学に行かなくちゃならないから、留守番頼めるか?」
一瞬心細そうな表情を浮かべるタマ。だがすぐにそれを振り払い、笑顔を見せる。
「大丈夫。行ってきていいよ」
「家からは出るなよ。何が起きるかわからんからな」
本当は蛍太郎にそんなことを命令する資格はないかもしれない。然るべき場所に保護してもらうのが最善のはずだ。
それでも、この子にいてほしかった。
「(頼っちまってるのは、俺の方かもな)」
自分を見上げるタマの視線に、僅かに胸が痛む。
「じゃあ行ってくるよ。絶対家の中にいろよ」
「わかったって。行ってらっしゃい」
閉じる扉の隙間から、タマが手を振っているのが見える。
大切なものを金庫にしまうように、しっかりと鍵をかけた。




