表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

深夜、幼女を拾う 4

「どうしよう。わからない、何にもわかんないよ!」


 驚いた蛍太郎(けいたろう)は立ち上がり、2、3歩後ろに下がる。


 周囲の人通りは少ないとは言え、まったくないわけではない。こんな夜中に、泣いている少女とそれを見降ろしている男。第三者からすれば、どちらが悪いと見るだろうか。


 悪者になるのは、当然蛍太郎の方だろう。


 やっぱり話しかけない方が良かっただろうか。面倒なことに巻き込まれてしまった。


 でも、こんな時間に独りでいる子どもを見過ごすことはできない。見て見ぬふりをして通り過ぎる方がよっぽど悪だ。


「まずは警察に届けて……」


 交番は駅の反対側にある。線路を越えればすぐに訪ねることができる。こういう時は警察に任せるのが一番確実だ。


「一緒に行こう」


 彼女の手を引いて、立ち上がらせようとする。


 しかし少女は首を横に振った。


「行きたくない」


「どうして? ずっとこんな所に座っていちゃ駄目だよ」


「でも嫌なの!」


 初めて声を張り上げた。消えそうな声が一転、威嚇をする猫のような様子になる。


「アタシ、どうしよう。どうもしたくない……」


 涙の量が増え、ボロボロと落ちていく。


 困惑する蛍太郎。


 そんな2人に、声をかける人がいた。


「ちょっとよろしいでしょうか」


 警官だ。今の今まで警察に行こうと言っていた蛍太郎。向こうから来てくれたなら、手間が省けたというものである。


 だが全力で拒否した少女を見た以上、このまま引き渡す気にもなれない。


 この状況、どう見ても蛍太郎が悪者だ。下手を打てば捕まりかねない。それに少女も、こんな時間に出歩いていてよい年齢ではない。補導されるのは目に見えている。


 最良の言い訳は――。


 蛍太郎はふと、家族のことを思い出した。


「ごめんなさい! 俺が悪いんです、帰りが遅くなるのに、一報入れなかったから。妹は心配して来てくれただけなんです」


 警官に頭を下げる。こんな即興の作り話が通用するかは、わからない。でも無理やりな設定ではないはずだ。


「妹さん? 泣いてるようだけど」


 高圧的な尋問。テレビの特集なんかで取り調べの様子を見たことがあるが、本当にこんな調子だとは。実際に自分が受けるとなると、怖くてたまらない。


「あー……。なんか怒ったり拗ねたりしちゃったみたいで。昨日、一緒にゲームをする約束をしていたので」


 そろそろ厳しいだろうか。


「それは本当かい?」


 今度は少女の方に質問が行った。


 しまったと蛍太郎は心の中で絶叫する。少女に話を振ることまでは想定していなかった。どうしようか。


 だが杞憂だった。少女が小さく首肯する。話を合わせてくれた。


「すみません。今後こんな時間に出歩かないように、きちんと言い聞かせます! ご迷惑をおかけしました!」


 すかさず頭を下げる蛍太郎。この調子なら押し切れそうだ。


 警官はやや訝しんでいたようだが、「気を付けて帰るんだよ」と言って立ち去った。


 よかった。なんとか乗り切れた。


 しかしここから先はノープランだ。警察にこんな話をして、連れて帰らないわけにもいかない。置いていけば補導されるだろうし、蛍太郎の家にも来て調査するかもしれない。そうすれば彼女が妹でないことはバレてしまう。


 置いて帰るという選択肢はない。


「とりあえず、ウチに来るだけ来るか?」


「いいの?」


 すかさず反応があった。少女はさっきまでとは打って変わって、明るい表情になっている。


 大丈夫だろうか? 絶対にわけありの子だ。どんなことになるかわからない。


 でも、見捨てることだけはどうしてもできない。


「いいよ。ついておいで」


 少女は別人のような明るい顔になり、元気よく立ち上がる。


「ありがとう。オジサン優しいね」


「誰がオジサンだ。俺はまだ学生だ」


 蛍太郎が歩き出すと、少女もそれに続く。


 警察はダメで、見ず知らずの男の家はいいという、基準がさっぱりだ。


 初夏とは言え、夜はだいぶ冷える。まずはお風呂に入れてあげよう。そんなことを考えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ