深夜、幼女を拾う 3
午後11時になった。終電には間に合う。蛍太郎はさっさと片づけを済ませて、駅に向かった。
その途中で、ポツリポツリと雨が降り始める。折りたたみ傘を差したが、風も強いため心もとない。徐々に速足になる。
さすがにこの時間になると、電車も空いている。乗っているのは、同じように仕事を終えたばかりであろうサラリーマンや、飲み会帰りと思われる集団ばかりだ。年配の人間が多い。
最寄り駅で下車し、改札を抜ける。外に出ると、雨脚は強まっていた。これは早く家に着かなければ大変なことになる。
その時。目の前の光景に、何か違和感を覚えた。何だ。帰宅する人がまばらにいる。何もおかしいところはない。
それなのに、どこかおかしい。目を凝らして見ると、その違和感の正体に気が付いた。
もうすぐ日付が変わる時刻だというのに、バス停の屋根の下に小さな女の子が座っているのだ。
見た感じ、小学校高学年か、中学生くらいだ。誰もその子を気にかけていない。むしろ避けているように感じる。
それもそうか。こんな時間にこんな歳の子がいるなんて普通ではない。あまり関わり合いになりたくないのだろう。蛍太郎だってそうだ。関わると碌なことがないはずだ。駅の近くには交番もある。きっと警察が何とかしてくれる。だから見て見ぬふりをしよう。
そう思ったのに。足は自然とその子に向かっていた。
「君、どうしたの?」
少女はビクっと肩を震わせ、顏を上げる。幼いが端正な顔立ちだ。栗色をした大きな瞳、やや日焼けした健康的な肌色。思わず引き込まれてしまう。
声をかけたものの、返事はない。唇が僅かに動いている。何か言いたいようだが、上手く声が出せない感じだ。
「君、大丈夫?」
改めて訊いてみる。すると少女は小さく首を横に振った。
「わからない。アタシ、なんにもわからない」
か細い声が聞こえた。今にも消え入りそうで、不安になる。
少女は再び俯いてしまう。彼女に視線を合わせるように、蛍太郎はその場にしゃがんだ。
「アタシはどうしたらいい?」
彼女は絞り出すような声で尋ねる。
そう言われても――と、唇を歪ませる蛍太郎。
だが混乱してしまっている少女を前にして彼は、自分が何かしてやらねば、という気に駆られた。
まずはどうすべきか。彼女に落ち着きを取り戻してもらうところから始めよう。それなら、まずは彼女がわかることから訊いてみようか。
「名前は? どこから来たとか」
それがわかって当たり前という考えは、いささか浅はかだった。
「わからない」
それすら、駄目なのだ。
今の質問は、余計に少女を追い詰めてしまったらしい。とうとう泣き出してしまった。