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15章 銀河連邦からの依頼  08

 リーダーの言っていた階段はすぐに見つかった。『アナライズ』すると運よく『ラムダドライブへと続く階段』と出て来たので迷わず下りていく。


 隔壁をいくつか破りながら進んでいくと再び管理室のような部屋に出た。所員が数名いたので『拘束』して話を聞くと、やはりそこがラムダドライブの管理室ということだった。


「このラムダドライブとやらを暴走させて爆発を引き起こすことは可能か?」


「かっ、可能だ。だがそのようなことをしたら周囲数キロがすべて吹き飛ぶぞ!」


「ああ違う、俺がやるんじゃない、お前らのボスがやるんだ。遠隔操作で暴走させることもできるんだろ?」


「それは……ボスならば可能かもしれないが……」


「遠隔操作を止めることはできないのか?」


「俺たちはそこまでの技術者じゃない」


「ラムダドライブを停止させることは?」


「簡単に停止できるものじゃない。手順をミスるとそれだけで暴走しかねん」


 またそれは結構危ないものを扱ってるんだな。科学が進んでも人間は自分の手に負える以上のものを弄びたがるということか。


 俺は部屋の奥にある窓から外を覗いてみる。窓の外には縦横高さともに20メートルはありそうな空間が広がっており、その真ん中に銀色の円筒を中心に管やケーブルがつながれた、いかにもSF的な『エネルギー炉』っぽい構造物がある。


「暴走して爆発するのはあれか?」


「そ、そうだ。あれがラムダドライブの本体だ」


「例えばあれがいきなりきれいさっぱり消えてなくなったとして、この施設の動力は全部失われるのか?」


「は? いや、非常動力源が作動するはずだが……」


「そうか」


俺は『空間魔法』を発動。ラムダドライブ本体の上に穴が開き、それが上から下まで移動する。空間が円筒形に切り取られたような形で、ラムダドライブ本体はきれいさっぱり消えてなくなる。切断された管から多少エネルギー的なものが逆流しているがそれもすぐに収まった。


 動力源を失ったことですべての照明や機器の電源が落ちた。だが非常動力源が作動したようで、すぐに非常灯が点灯、同時に動力源ダウンの警報が響き渡る。


「な……っ、ドライブが消えた……!? いったい何をしたんだ……!?」


「爆弾処理だ。さて、じゃあな」


 俺は『拘束』をそのままにして管理室を後にした。奴らは運がよければ調査隊につかまって監獄小惑星行きになるだろう。運が悪ければ『深淵獣』の餌だが。


 階段を上って元の階層に戻ると、そこは『深淵獣』の巷になっていた。六足獣の丙型やローパー型の丁型が主だが、乙型以上がいないのは通路に入って来られないだけだろう。


 俺は『深淵獣』を駆逐しながらその流れの元に向かって通路を進んでいった。10分ほど進むと乙型カマキリがひしめく大きな部屋に出た。風魔法『リッピングストーム』で一掃して部屋を見渡すと、奥の壁が歪んだようになって通路を形作っているのが見えた。見る間にそこから新たな『深淵獣』が湧いてくる。


「あまりデカくないと助かるんだがなあ」


 そう祈りつつ、俺は『深淵窟』へと足を踏み入れた。




 幸い『深淵窟』自体はそこまで大規模なものではなかった。勇者力を全開にして進んでいくと30分ほどで最奥部にたどり着く。


 出てきたのはこの間も見たゴリラ型の甲型だった。『ディアブラ』で真っ二つにして討伐完了だ。気が付くと『深淵窟』は消え、俺は元の大部屋に1人立っていた。


 通路を引き返し、新良たちが立てこもっていた管理室を一応覗いてみる。とりあえず血の跡とかはないので無事に外へと向かったようだ。


 俺が部屋を出ようとした時、壁のモニターの一部がいきなり点灯し映像を映し出した。人型のシルエット、さっきのフィーマクードのボスだ。


「貴様か、私の邪魔をするのは」


 電子処理された声にはこらえきれない苛立ちがこもっている。切り札を二つとも潰されればそりゃキレるよな。


「貴様は何者だ。捜査局の人間には見えんが」


「『アンタッチャブルエンティティ』、だったかな?」


 真面目に答える必要もないので、俺自身全然理解してない言葉を出してみる。


「そのような与太話を信じると思うのか。まあいいだろう、外に出たところでお前たちは生き延びられん。神の怒りに触れて死ね」


 ボスがそう言うと、モニターはまたブラックアウトした。


 神の怒りというのは大仰(おおぎょう)な話だが……上空から宇宙船で攻撃するとかそんな話だろうな、多分。




 さて、俺もそのまま新良たちの後を追おうと思ったが、ふと気付いてあちこち部屋を回り、あったものをすべて『空間魔法』にしまっていった。


 さっきのボスの話もあるし、また何らかの手段でフィーマクードが証拠隠滅に走らないとも限らないからな。先手はうっておくに限るだろう。


 その後全力で走っていくと、先行する調査隊に追いついた。


 最後尾を守る新良に並び、さきほどのボスの話をする。


「『神の怒り』と言ったのですか? 何かの比喩だとは思いますが……なんでしょう」


 新良が首をかしげると、前を歩く狐獣人のネイザリンが振り返った。


「フィーマクードが有する艦隊の旗艦が強力なソリッドラムダキャノンを装備していて、連中はそれを『神の一撃』とか呼んでいたはずよ」


「それはどんな兵器なんだ?」


「ラムダエネルギーを封入した実体弾を撃ちだす兵器ね。宇宙空間から直接地上を攻撃できる兵器で、どこかの辺境惑星の都市がそれで消滅したって話もあるわ」


「そりゃとんでもないが、実体弾ならどうにでもなるな。ただ上空で炸裂するタイプだとちょっと厄介か」


 確か日本に落とされたあの爆弾も上空で爆発することで威力を出す設計になっていたはずだ。それと同じだとさすがに防ぐのは難しい。


 対応を考えながら走っていると、通路の先が明るくなってきた。やがて出口が見えてきて、俺たちは空港のハンガーの中に出た。


 全員が外に出ると、調査隊の面々からは安堵の溜息が漏れた。一呼吸おいてからリーダーが俺のところに来る。


「我々はこのまま調査船に戻り本部の指示を仰ぐ。あなた達のことはどう扱えばいいのだろうか?」


 俺が答えられることではないので新良が前にでる。


「我々はここには存在しなかったことになっている。局長に聞かれた場合にのみあったことをそのまま答えていい」


「分かった。お二人には感謝してもしきれない。いつか機会があったら心からの礼をしたい」


「その気持ちだけで結構ですよ」


 と言いつつ、俺は調査隊の面々から『タネガシマ』などを返してもらって『空間魔法』に放り込む。黒い穴に吸い込まれる道具を見て調査隊が驚いた顔をするのもすでに見慣れた反応だ。


 さて問題はフィーマクードのボスが言っていた『神の怒り』とやらだが……そこで新良のブレスレットが鋭い音を発した。


「大質量の物体が衛星軌道上にラムダジャンプアウト。先生、戦艦クラスの艦艇が出現したようです。恐らく――」


「フィーマクードの船、しかもボスが乗っている旗艦、みたいな感じか?」


「だと思われます。艦名『ヴリトラ』を受信。なぜわざわざ知らせてくるのでしょう」


「生かして帰さないという意思表示だろうな。仕方ない、とりあえずやれることはやってくる。新良たちは気にせず撤収の準備をしておいてくれ」


「分かりました」


 新良が当たり前のように答えると、ネイザリン嬢が慌てたように身を乗り出してくる。


「リリオ、そんな適当な感じで大丈夫なの!? ソリッドラムダキャノンを撃たれたらこの辺り一帯が消し飛ぶんだけど!?」


「先生に任せておけば問題ない。先生がどうにもできないことは多分私たちでもどうにもできない」


「ええ……。いったいどういう人なの……」


 ネイザリン嬢が何か言いたそうな目を向けてくるが、俺は見なかったふりをして『機動』魔法を発動。そのまま宙に浮かぶと、なんとなく嫌な感じがする方向へ向かって飛び上がった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  常識があって良心的な人ほど混乱させる先生ェ……。
[良い点] どんな人?世間一般的な勇者ですよ??
[一言] 折角わざわざ姿を表してくれたんですから、取った物をお返ししないといけませんね!大切な物らしいですし! あけましておめでとうございます!
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