14章 → 15章
―― クリムゾントワイライト 日本支部 支部長室
「うふふっ、あの感じだとガイゼルはどうやら失敗したみたいねぇ。あの腕と鼻、元に戻るのかしらぁ?」
「あちらの世界に戻れば直るだろう。どちらにしろこちらでは使えなくなったからな。戻って別の仕事をしてもらう」
「あらお優しい。部下をきちんと適材適所で使ってあげるなんてさすが支部長ねぇ」
「ふん、単にこちらに置いておくと暴走しかねんというだけだがな。あれでもまだ使い途はある」
「代わりに本部から結構な連中を呼んだみたいだけど、相羽先生はそんなに強かったのかしらぁ?」
「……俺のところに直接乗り込んできてな、正面から戦う奴を送って来いなどと言ってきた。思ったよりもはるかに面白い男のようだ」
「あら、直接会ったのに見逃したのぉ?」
「久世の居場所に乗り込んできたからな。スキャンダルになるようなことはできんよ。その辺りも計算していたのだろう、食えん男だ」
「うふふ、勝てるかどう分からなかったじゃないのね?」
「正面からやり合えば勝てるだろうが、無傷というわけにもいかんかもしれん。お前の言う通り、その程度の実力はありそうだ」
「『魔人衆』の幹部にそこまで言わせるなんてそれだけでも大したものねぇ。いよいよ楽しみになってきたわぁ」
「お前の希望通りにはならんと思うがな。ともあれ奴を始末するまでは大きな動きはできん。もっとも今はそこまで動かずともすべきことがあるのだがな。しかし『魔人衆』配下よりこちらの世界の権之内のほうがはるかに使えるというのはおかしなものだ」
「伝説の勇者が生まれた世界なのよ、甘く見てはいけないと思うわぁ」
「くくっ、お前のその言葉も聞き飽きたが……確かに一理はあったな」
―― 青奥寺家 リビング
「だから師匠、その指輪とネックレスは先生に返しましょう」
「嫌です。これは相羽先生が付き合う記念にくれたものだから返しません」
「往生際が悪いですよ師匠。相羽先生がはっきり言ってたじゃないですか。あの男をおびき寄せるために付き合うふりを頼んだだけだって」
「あの場でそんなことは言ってなかったもん。ただいきなり付き合ってくださいって言われただけだもん」
「なんで急に子ども言葉になるんですか。だいたい師匠はもともと先生のこと悪く言ってたじゃないですか。なんで急に態度が変わるんですか」
「嫌いから始まる恋とか基本中の基本。それが分からないなんて美園ちゃん勉強が足りてないから」
「変な小説とかマンガとかに染まるのを勉強って言いません。大学生なんですから分別はつけてください。ねえ、お母さんも何とか言ってよ。このままじゃ私先生に合わせる顔がないから」
「あら、別にいいんじゃない。相羽先生は青奥寺家の家系には絶対に必要な人だし、雨乃ちゃんが捕まえてくれればそれはそれでありがたいわ」
「ちょっ、お母さんなんてこと言うの!?」
「さすが美花姉分かってる」
「本当は美園が捕まえてくれるのが一番なんだけど。お弁当作ってあげてるんでしょ? 感触はどうなの?」
「だからあれはただのお礼でやってるだけで……。一応美味しいとは言ってもらってるけど……」
「えっ!? 美園ちゃんまさかすでに逆寝取り計画を……」
「意味が分かりませんけど多分全然違います」
「本当に~? 相羽先生って結構逆寝取り狙いが多いから怖いのよね。この間の合コンの時もすごい美人に声かけられてたし」
「美人? ……ああ、その人は今のところ先生の敵みたいです」
「そうなの? かなり親しげだったし結構距離感近く感じたけど。相手はどう見ても先生を誘う気まんまんって格好だったし」
「……は?」
「ちょっ、美園ちゃん目が怖いから」
「そんなことはどうでもいいです。師匠、今の話もう少し詳しく聞かせてください」