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1章 元勇者、教師になる 08

「はあ、なんかこっちに戻ってきてから休む間がなくないか……」


 アパートで遅い夕飯を食いながら、俺の口からつい独り言が漏れてしまう。


 波乱の勇者人生が終わって戻ったと思ったら、初日から出勤日でそのまま怒涛の新人教員生活とかさすがにヒドいのではないだろうか。


 なにしろ「あの世界」での思い出にゆっくりと浸っている暇すらない。それが現代の社会人だ、と言われればそれまでだが、さすがにおかしいと思わないでもない。


 そういえば勇者パーティのアイツらは国に帰ってきちんと評価されただろうか。


 俺と違ってそれぞれもともと地位のある奴らだったから大丈夫だろうとは思うが、俺は王国に帰っていたらきっとロクな目に遭わなかったろう。


 権力闘争とかホント勝手にやってくれって感じだが、そうもいかないのが政治の世界なんだよなあ。


 などと考えながら、ぼんやりとテレビを見る。


 と、流れていたバラエティ番組が、急にニューススタジオの画面に切り替わった。


『……緊急速報です。都内のナカタチビルにおいて立てこもり事件が発生いたしました。複数の犯人がビルをすべて封鎖して、人質をとって立てこもりを行っている模様です。犯人の目的は不明。現在警察はビルを包囲して、犯人と交渉ができないかを探っているところです』


 おや、俺がいない間にこっちの世界も物騒になったもんだ。


 そういや『あの世界』に行く前にも、似たような立てこもり事件が話題になっていたような気がするな。ただそれは日本じゃなくて別の国だったと思うけど。


『……新しい情報が入りました。どうやら犯人は、自分達を『クリムゾントワイライト』と名乗っているようです。繰り返します、犯人は『クリムゾントワイライト』を名乗っているようです』


 あ、この恥ずかしい名前で思い出した。確か「国際的な犯罪組織」とかって奴だ。そんな組織現実にあるのかよ、とか学生の間でも話題になってたなあ。


 あれ、ということはそいつらが遂に日本にも現れたってことか? それって結構ヤバい話なんじゃないのか。


 『クリムゾントワイライト』と言えば、確か乗っ取ったビルを丸ごと爆破したりするトンデモ連中だったはずだ。


『これは直前のビルの入口の様子を映した監視カメラの映像です。複数の似た背格好の男が入って行く様子が映っています』


 テレビに映っているのは、確かに言われてみれば似た背格好をした男たちの姿だった。


 一応違う服を着ているみたいだが、着ている服のセンスが同じだ。誰か一人が全員の服を選んだとしか思えない。


 しかしそれよりも、俺の目を強烈に引くものが画面の端に映っていた。


「これ双党じゃないか?」


 そこに映っていたのは、大きなリュックを背負ってビルに入って行く、明るい髪をツインテールにした少女。


 それは俺が担任をしている2年1組に所属しており、昨日から公認欠席をしている生徒、「双党かがり」に間違いなかった。




「あ~、集まってるな」


 夜中にもかかわらず、その20階建てのビルの周りはものものしい雰囲気に包まれていた。


 周囲の道路にはいくつものパトカーや人員輸送車が並び、多くの警察関係者が動き回っている。


 さらにその外側にはマスコミの取材陣が張り付いていて、不謹慎だがちょっとした祭りの場のようにも見える。


 俺はその様子を、近くのビルの屋上から見下ろしていた。


 ちなみに近隣にあるいくつかのビルの屋上には、警察の特殊部隊らしき人間が待機しているようだ。


 さて、なぜ俺がこんなところにいるかというと、さすがに生徒のピンチは見逃せなかったと言うしかない。


 正直なところ、いくら超人的な勇者パワーを持っているからといって、事件を解決してやろうとかそんなことを考えたことはなかった。


 日常が忙しすぎてそんなことすら考える間がなかったし。


 しかしさすがに教え子が巻き込まれたとあっては教師としては動かざるを得なかった。


 もっとも犯罪組織によるテロルとか、普通の教師だったらどうにかできるものでもないんだが。


「中はどんな様子かな……っと」


 各種感知スキルを全開にして、ナカタチビル内部を走査(スキャン)する。


 分かるのは生き物の大まかな位置だけだが、それでも十分な情報だ。


「ビルは地上25階、地下2階……7階のホールに人が集められているのか。他の階にはほぼいない……いや、何人か殺されてるなこれ。完全にイカれてる連中じゃないか」


『クリムゾントワイライト』の構成員と思われる連中は7階を中心に13人いるようだ。それとは別に5人が地下2階にもいる。


 さらに気になるのは、それらとは全く別に独立して動いている『誰か』がいることだ。


 見ていると、その『誰か』は『クリムゾントワイライト』の構成員と思われる反応に接近し……


「お、反応が消えた。殺した……のか?」


『クリムゾントワイライト』の構成員を始末したと思われれるその『誰か』は、すぐにその場を離れた。


 この手のシチュエーションはさすがに経験がないが、恐らくプロの動きだろう。


 警察関係の特殊部隊員かと思ったが、彼らが1人で動くことはないはずだ。


 とすると偶然事件に巻き込まれた元自衛隊員がいるとかそんな話か? いやいや映画じゃないんだからさあ。


「とりあえず乗り込んでみるか」


 俺は『隠密』スキルと『光学迷彩』スキルを発動して姿を消すと、ビルの屋上から身を躍らせた。


 風魔法を3回使って身体を吹き上げれば、そこはナカタチビルの屋上だ。


 屋上の扉の鍵を魔法『風刃』で切断し、俺は謎の犯罪組織が占拠するビルに侵入した。

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