14章 釣り師 03
さて、そんな感じで刺客をどう返り討ちにしようかと意気込んでいた俺だが、翌日なぜか道場で吊し上げをくらっていた。
「先生、師匠に告白したっていうのは本当ですか?」
青奥寺のその一言で道場の空気が一変したのだ。ピクッと反応した新良と双党がいつの間にか青奥寺の両隣に来て俺を囲む。三留間さんは心配そうな顔で、絢斗はやれやれ顔で遠巻きに見ている。
「いや、そんな事実はないが」
「でも昨日、師匠が帰ってきてから大変だったんですけど。相羽先生に付き合って欲しいと言われたとか、指輪とネックレスをつけてもらったとか言って大騒ぎしてました」
「いや……ええ……」
何してんのあの娘。まさかやっぱり酔ってて俺の話聞いてなかったのか?
「確かに付き合って欲しいみたいなことは言ったし指輪もネックレスも渡したが、別に告白したわけじゃないぞ」
「先生、それは設定に無理があると思いますっ」
双党が手を挙げて言うと、他の2人も強く頷く。
「なんだよ設定って。そうじゃなくて、実は昨日な……」
俺はカーミラから情報を聞いたことや、ガイゼルをおびき寄せるために雨乃嬢にお願いをしたことなどをそのまま話した。
話を聞くと青奥寺と双党はなんとなくホッとしたような、それでいてまだ疑っているような微妙な顔になった。新良だけはずっと無表情だが。
「その話、師匠には多分まったく通じてないと思います。なんか本気で先生に告白されてどうしようとか母に相談してましたし」
「いやそれは困るな。今日青納寺さんは道場に来ないのか?」
「ええ、なんか朝から浮かれてましたから。あの感じだとそのガイゼルとかいう人にすぐさらわれてしまうんじゃないでしょうか。先生のお話が本当なら、ですが」
「いやそこは本当だから。まあさらわれてもらわないと困るからさらわれるのはいいんだけど、勘違いさせてしまったのは申し訳ないな」
「でも美園の話だと雨乃姉はまんざらでもない感じなんですよね。先生的にはそのまま勘違いさせておくのもありじゃないんですか?」
双党がニヤケ顔でそんなことを言うが、それを「ありだな」とか言ったら青奥寺に視線で刺されそうなんだよなあ。
「そんないい加減なことできるわけないだろう。もう一度きちんと説明するよ。悪いが今日は青奥寺の家に行かせてもらうかな」
「そうしていただいた方がいいと思います」
ふう、青奥寺の眼光がかなり緩んだのでどうやら助かったようだ。まあ青奥寺からしたら姉同然の師匠に担任が手を出したなんてとんでもない話だろうしな。気にするのは当然だろう。
俺がホッとしていると、それまで黙っていた新良が口を開いた。
「ところで先生、そのカーミラという女性はどうして先生にそんな重要な情報を伝えたのでしょうか?」
「う~ん、この間見逃したからその礼だとは言っていたけどな。多分別の目的もあるだろうな」
「その目的が何かは分からないんですね?」
「そうだな。もしかしたら俺が勇者だって気付いてる可能性もあるが……そうすると彼女の所属する『勇者教団』を手伝えって話になるのかもしれない」
「異世界に行って復活した魔王を倒す、ですか?」
「カーミラの言葉を信じればな」
「正式に依頼されたら、先生は受けるんですよねっ」
双党が割り込んでくるが、実はそこは結構悩みどころだったりする。
「その時にならないとわからん。事情はそこまで詳しく聞いてなかったしな」
という俺の答えに、3人娘はなぜか白い眼を向けてくる。ああ、これはあれだな、何を言いたいかは分かってるぞ。
「いや別に相手が美人だからってなんでも言うことを聞くわけじゃないからな」
「それに関しては全く信用できません」
青奥寺が断言すると、他の2人も強く頷いたのであった。
夕方青奥寺と一緒に青奥寺家を訪れると、雨乃嬢はまだ戻っていないということであった。青奥寺がスマホで連絡を取っても返信がないらしい。
「先生、これってもしかして……」
「そうだな。意外と早かったな」
「落ち着いてていいんですか?」
「かなり強力なアイテムをもたせてるから大丈夫。さて、じゃあ向こうから誘われる前にこっちからお邪魔してやるかな」
「場所は分かるんですね」
「ああ、ネックレスが発信機になってるから問題ない」
ということで『機動』魔法を発動したのだが……
「先生、私も連れていってください」
と『ムラマサ』を手に青奥寺が言ってきた。
「飛んでいくんだが大丈夫か?」
「はい、その……お姫様抱っこなら大丈夫です」
ん? なんか空耳が聞こえたような……。でも青奥寺も顔を真っ赤にしているから多分聞き違いじゃないんだよな。
さすがにここで聞き返すのは悪い気がするので、俺は「分かった」と言って青奥寺を持ち上げた。『ムラマサ』を胸に抱いたまま丸くなってしまう黒髪少女。いやこれすごく持ちづらいんだが……。
俺はそんな言葉を飲み込みつつ、『灯火のネックレス』の反応がある方に飛び立った。