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13章 処刑台の勇者  05

 処刑会場はなぜか俺の部屋だった。


 俺はテーブルを前にして座らされ、正面に青奥寺(あおうじ)、右に新良、左に双党の配置だ。


 青奥寺はいつもの3倍くらいに目つきが悪くなっていて、新良の光のない瞳は普段以上に感情がないように見える。唯一ニヤニヤしている双党はキョロキョロと部屋を見回しているが……なにか新たな物証でも探しているのだろうか。


 俺が一応ペットボトルのお茶を4人分出すと青奥寺が口を開いた。


「では相羽先生、昨日の状況についての説明をお願いします」


「あ、その前に美園が見たっていう状況をもう一度教えて」


 双党の言葉に青奥寺は溜息をついて答えた。


「私がこの部屋に転送された時、先生と初等部の神崎さんが一緒に朝食を食べていたの。神崎さんは明らかに寝起きだったから、この部屋に泊っていったんだと思う」


「先生、神崎さんというのはもしかしてあの時の?」


 新良の質問に俺は頷く。


「そうだ。あの時一緒に戦った魔法の使い手だ」


「あ~、あの魔法少女ちゃんかあ。なるほどなるほど」


 双党が訳知り顔でうんうん頷くと、青奥寺が眉を寄せた。


「2人とも知っているの?」


「まあね~。この間大規模な戦いがあって、宇宙人まで来たって話したでしょ。その時に一緒に戦ったんだよね。先生と同じような魔法を使うし、空も飛ぶ魔法少女。かなりすごい子だよ」


「彼女の戦闘力は驚異的。年齢を考えると相当な使い手」


 青奥寺は「ふうん」と言うと、俺に再び氷刃宿る視線を向けた。


「では先生、そのような女子と一緒だった説明をお願いします」


「いやまあ、だいぶ前に向こうから絡まれてな。話をすると俺が勇者をやっていた世界から来たみたいなんで何度か話す機会があったんだ。で、なんか気に入られたのかなんだかよく分からないが、時々俺の部屋に泊っていくようになったんだ」


「先生なら断れるはずですよね。というか断るべきですよね?」


「青奥寺の言う通りなんだが、あの子は魔法で勝手に部屋に入れるんだよ。で言ってもでていかないし、無理に放りだすわけにもいかないだろ。触っただけで問題発生だし」


「なるほど」


「それにどうも彼女はあっちの世界から一人でこっちに来てるみたいなんだ。家族もいないとかで、家庭環境も複雑らしい。そんなこともあって強く言えないで今に至ってるって感じだ」


「先生としては可哀想な子の面倒を見ているとか、そんな感覚なわけですね?」


「そんな感じになるのかな。いや別に見たくて見てるわけじゃないからな」


 リーララが強引に泊っていっているというのはなんとか分かって欲しいものだ。それが救いになるかどうかははなはだ怪しいが。


璃々緒(りりお)とかがりはどう? 何か聞きたいことはある?」


 青奥寺が左右を見ると、新良が反応した。


「先生は彼女に好意を持っているんですか?」


「は? ああ、いや、まあ保護者的な感覚は多少あるのかもしれないがその程度だ」


「異性としては見ていないと?」


「当然だろ。俺にそんな趣味はないからな」


 そこだけははっきりしておきたい。というか実際にその件を疑われるのは相当キツいなこれ。


 俺が渋い顔をしていると、双党が手を挙げた。


「はい質問っ、神崎ちゃんがお泊りするときはこのベッドで寝ているんですよね?」


「勝手に使ってる感じだけどな」


「先生はどこで寝てるんですか?」


「寝袋を出して床の上だな。寝起きは最悪だ」


「添い寝とかはしてないんですね?」


「……するかそんなこと」


 ああしまった、生来嘘をつくのが苦手な癖がここででちまった。一瞬答えが遅れたのを見逃す処刑人ではないというのに。


 処刑人筆頭の青奥寺の瞳が凄惨(せいさん)な光を帯びる。


「先生、今一瞬うろたえましたね。どうしてですか?」


「気のせいだろ。俺は無実だ」


「そうですか。まあこの後神崎さんにも事情を聞いてすりあわせを行いますから、ここで先生が無実かどうかは判断しませんけど」


「申し訳ありません。一回だけ添い寝しました」


 ということで、この後1時間にわたって3人から冷たい視線を浴びつつ説教といじりを食らったのであった。


 ちなみに宇佐さんの一件もゲロさせられた挙句にカーミラの一件も取り上げられて、「美人に弱すぎます」とかなり責められた。ただそこは「そのおかげで3人にも甘いんだぞ」と言ったら顔を真っ赤にして引き下がったのでよしとする。言い逃れとしては諸刃の剣だったが上手くいってよかった。

 

 しかしなぜか最後に「夏休みに俺が実家に帰る時に一緒に行く」という意味不明な約束をさせられたのだが……まさか俺の親に今回のことを報告するわけじゃないよな? さすがにその拷問は勇者でも耐えられないのだが。




 翌週月曜、結局俺は校長のところに行ってリーララの件を相談した。相談したというより罪の告白に行ったようなものなのだが……。


「神崎さんについては、彼女があの年齢で一人であるということは実はずっと気にかかっていたのです。ただ彼女の特殊性を踏まえて口を出さないでいたのですが、もし彼女が相羽先生を保護者として選んだのなら面倒を見てもらえると助かります」


「は……、それはその、大丈夫なのでしょうか? 体外的には色々と問題がある気がしますが」


「もちろん大っぴらに知られてしまうのはよろしくありません。しかし彼女と相羽先生ならそのあたりは周囲に知られないようにすることも可能なのでしょう?」


「ええまあ、魔法を使えば可能ですが……」


「ならば構いません。何かあったら私が責任を持ちます。正直なところ、彼女が1人でいる方が教育的にも好ましくないのです。彼女はどこか常識を外れているところがありますので……。相羽先生には負担をかけますが、その分手当は支給させていただきます」


「分かりました。私としては今まで通り向こうが来るのなら拒まないというスタンスで接することにします。それでよろしいでしょうか」


「ええ、彼女は無理矢理なにかさせようとするとかえって反発するでしょう。相羽先生ならその辺りうまく誘導できる気がします。これは単なる勘ですが」


 そう言って校長はにっこりと微笑んだ。いや、微笑みと言うにはかなり含みがある表情ではあるのだが。


 俺が言うのもなんだが、初等部の女子が教員を保護者として一緒に生活する……そんなことを認めていいのかという気もする。しかし校長の中ではなにか判断する理由があるのだろう。俺がそういう趣味を持っていないて信じてくれているようだし、それに応えるのはやぶさかではない。


「分かりました、神崎さんについては今まで通りで接します」


 なんだかよく分からない流れでまさかの校長公認となってしまった。だがこのことはリーララには黙っていよう。なんとなくだが、それを言ったらあの褐色娘、完全に俺の部屋に住み着きそうな気がするんだよな。

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― 新着の感想 ―
[一言]  養子縁組とも思ったけど、リーララの戸籍が偽装かもしれないと下手に手続きとかやろうとすると面倒な事態になりそうかぁ。
[良い点] この学校、対外的に知られてはならないことだらけですからねぇ。 今更ひとつふたつ増えたところで、という感じではありますね。
[一言] 昔は、教師の家に生徒が遊びに行ったり泊まったりって普通にあったんで、最近がコンプラだとか性なんちゃらが厳しすぎるだけなんですよね。 いや、それを悪用して生徒に手を出す不届き者がいなかったとは…
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